わたしに会うまでの１６００キロ
ＷＩＬＤ
これは、アメリカ西海岸を縦断する自然遊歩道“パシフィック・クレスト・トレイル”を３ヵ月かけて踏破したシェリル・ストレイドの自叙伝を映画化したもの。
監督は、「ダラス・バイヤーズクラブ」のジャン＝マルク・ヴァレ。
「バカなことをした」とシェリルはすぐに後悔した。
メキシコ国境近傍の砂漠に始まりロッキー山脈を越えてカナダに続く“パシフィック・クレスト・トレイル”（ＰＣＴ）はまだ始まったばかり。
水や食料、様々な装備を背負い出発し、初日に進んだのは僅か５km。テントを張るのに悪戦苦闘し、携帯コンロは燃料を間違えて火が起こせず、野生動物の物音に脅え……この先の行程は１６００km。シェリルの旅はまだ始まったばかりだった……
映画は、同じようなタイミングで類似の作品が公開される事があります。２０１３年には、ホワイトハウスがテロリストに占拠される、と言う内容のサスペンス映画が被りましたし、先日も、人の脳内を擬人化した「脳内ポイズンベリー」と「インサイド・ヘッド」が被りました。
この映画も、若い女性がひとり大自然の中を旅する、と言う点で先日公開された「奇跡の２０００マイル」に重なりますが、その内容は大分違います。
周到な準備をして出発した「奇跡の２０００マイル」のロビンに対し、この映画の主人公、シェリルは、映画冒頭、荷物を担ぎ上げる事さえ苦戦するのですから、その先が思いやられます。もっとも、年間数百人が挑むＰＣＴに対し、ロビンの旅は、あの「ナショナル・ジオ・グラフィック」誌が独占取材を申し入れるレベルの冒険ですから、差があるのも当然なのですが……
そして、自分の居場所を見つける為に砂漠に向かったロビンに対し、シェリルの旅は“自分”を取り戻すためのもの。
孤独な旅路の中で、シェリルは、その歩と同時に自分の人生を振り返り、己との対話を繰り返します。その内容は時に哲学的な様相を帯び、時系列順ではない回想シーンと相まって、この映画を難解に見せるかもしれません。しかし、その脈絡のなさ、とりとめない思考の流れを語る内容が、この物語が自叙伝である、と言う事を示している、と見る事も出来るのではないでしょうか。
シェリルを演じるのはリース・ウィザースプーン。自ら原作を読み込んで映画化を推進した、と言う事だけのことはあり、灼熱の砂漠から雪のロッキーまでアメリカを縦断するロケに、彼女としては珍しいヌードや激しい性交シーンを含む、正に体当たりの取り組みを見せています。そして、学生時代から、荒んだ生活でやつれた様相、そしてそれが歩く事で変容して行く様を見事に演じて、母親役のロ−ラ・ダーンと共にアカデミー賞にノミネートされるに至りました。
１６００kmを踏破し、辿り着いたゴールでシェリルは本当の自分に出会います。
でも、その自分は、ずっと彼女と共にいたのです。それは、極当たり前の自然な事ではあるのですが、その「自然」とは容易に壊れ、そして取り返すのは難しい、と言う事を、この映画は豊かな大自然を以て雄弁に語ります。
これぞ正に「自分探し」の旅。それを見応えのあるドラマと、美しい風景で語る、素晴らしい出来の映画でした。
（２０１５年 ８月 日 にて）
（作品データ）
■監督
ジャン=マルク・ヴァレ
■出演
シェリル・ストレイト ・・・ リース・ウィザースプーン
ボビー ・・・ ローラ・ダーン
（その他のキャスト）
トーマス・サドスキー ミキール・ハースマン ギャビー・ホフマンケヴィン・ランキン
Ｗ・アール・ブラウン モー・マクレー キーン・マクレー ブライアン・ヴァン・ホルト
■コピー
何度もやめようと思った。
でも歩き続けた。
人生とおんなじだ。
■Ｌｉｎｋ
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