ももへの手紙
これは、「人狼」の沖浦啓之監督が、７年越しの構想を経て完成させた久々の映画。
今回は、「人狼」とはガラリと雰囲気を変え、豊かな自然に恵まれた瀬戸内の島を舞台にした、心温まる物語になっています。
小学６年生のももは、母と共に瀬戸内の汐島へとやって来た。
父を突然の事故で亡くし、母が子どもの頃に暮らしたこの島に移り住むことになったのだ。
親戚の古い家での生活が始まったある日、屋根裏部屋から不思議な物音を聞いたももは・・・
この映画、製作はプロダクションＩ．Ｇ。
作画監督に「千と千尋の神隠し」の安藤雅司を起用して、少し雰囲気は変わりましたが、それでも「人狼」で見せた沖浦監督ならでは超絶セルアニメ技法は相変わらず。
ＣＧに頼らず、ここまでセルでやってしまう、沖浦啓之こそ、究極のセル画アニメーターのひとりでしょう。
そんな超絶テクで描かれるのは、意外にも派手さを抑えたもの。
細やかな描き込みと、世界を柔らかに包み込むような淡い色彩で描かれるのは、アニメと言うより、古風な日本映画の世界です。
所謂、アニメ的な、鮮やかな色彩や、マンガ的なアクション、勿論、「萌え」要素など論外の内容で・・・確かに、良心的な作りではあるけれど、これはちょっと観客不在な映画かな、と。
つまり、アニメファンに注目されるものではなく、さりとて、大人向けと言う訳ではありません。
子供向けと言うには、登場する妖怪達が「トトロ」のように可愛い訳ではない・・・Ｇ．Ｗ公開であったにも関わらず、観客動員で苦戦しているのは、こうした内容からではないでしょうか？
気になったのは、「となりのトトロ」との共通点。
この映画、まるで「トトロ」の双子のように似通っているのです。
物語は、都会から田舎に引っ越して来た少女が、人間たちを見守る奇妙な妖怪に出会うと言うもの。
どちらの物語も少女の家は片親で、不自由な田舎暮らしの親子に何かと世話をしてくれる老人がいて、近所に住む同い年の男の子と親しくなる。父親の仕事が学者であることまで同じです。
恐らく、沖浦監督には真似をしているつもりはなかったのでしょう。
むしろ、現在の「家族向け」映画として、必要な要素を揃えて行ったら、いつの間にか似通ってしまった、と言うような状況ではないでしょうか？
（「サマーウォーズ」も田舎の旧家が舞台、実写映画ではありますが、Ｇ．Ｗ公開の「ＨＯＭＥ 〜愛しの座敷わらし」も似たような設定、人気シリーズの「ＡＬＷＡＹＳ 三丁目の夕日」は時代背景が昭和３０年代）
映画の舞台になっている瀬戸内海の汐島は、この映画のために作られた架空の島。モデルになっている（ロケハンをした）のは広島県の大崎下島だと言いますが、橋を渡れば今治市、と言う設定からすると、これは大島のこと。
映画に出て来る風景は、正にこの辺りのもので、以前、しまなみ海道を訪れた時の事を思い出しました。
（月日 にて）
（作品データ）
■監督
沖浦啓之
■出演
宮浦もも ・・・ 美山加恋
宮浦いく子 ・・・ 優香
ヤマ ・・・ 西田敏行
カワ ・・・ 山寺宏一
イワ ・・・ チョー
（その他のキャスト）
坂口芳貞 谷育子 小川剛生 荒川大三郎 藤井晧太
橋本佳月 山本道子 中博史 高橋耕次郎 岡田吉弘
前田義信 福島桂子 山口登 細谷佳正 宮崎寛務
光藤真白 高田始聖 田中綾 藤村天羽
■コピー
気がつけば、私、ひとりじゃなかった。
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