インファナル・アフェアＩＩＩ
終極無間

　香港映画「インファナル・アフェア」シリーズの完結編。
　本作を以て、マフィアに潜入した警官ヤンと、マフィアの身分を隠して警官となったラウの物語が、ついに幕を閉じます。

　ヤンとラウ、ふたりの出逢いと悲劇を描いた「Ｉ」、ふたりの若き日を描いた「II」に対し、「III」の舞台は「Ｉ」の１０カ月後に始まります。
　ヤンの意志を継いだかのように、警官として生きることを選んだラウの前に、保安課の幹部警官、ヨン警視が現れる。
　ヨンの行動に怪しいものを感じたラウは、独自に調査を開始。ヨンが中国本土の武器密売組織の大物、シェンと接触していたことを知るが・・・

　第１級のサスペンスドラマであった「Ｉ」、それに、まるでシェイクスピアの悲劇のような重厚な人間ドラマを加えた「II」。
　これら前作に対し、「III」は、ラウの心の中に焦点を合わせ、マフィアと警官との間で、自我を見失い、崩壊していく心のドラマを描く、サイコ・サスペンスの色合いを強めています。

　「Ｉ」の１０ヶ月後に始まったドラマは、ヤンの過去を調べるラウの行動と共に「Ｉ」の数年前に飛び・・・序盤はまだ時制が明記されているのですが、それが次第に曖昧になり、やがて「今」を生きるラウの世界にヤンが姿を見せるようになります。
　この描写、最初、ぎょっとしたものの、これが自我の壊れていくラウの精神世界なのです。
　マフィアに潜入したヤンが「俺は警官だ」と言うのなら、警官であろうとしてもラウはあくまでもマフィアでしかない。
　このジレンマがラウを苦しめ、やがてラウの自我は、己を見失っていくのです。
　終盤、自分とサムとの通信記録を証拠に、保安課に乗り込んで「ラウを逮捕する」と言ったラウの姿に、無間地獄に陥った者の哀れさが表現されていました。

　もっとも、サスペンスとして極めて高い完成度を持っていた「Ｉ」、ドラマの重厚さを見せた「II」に対し、この「III」の完成度はいまひとつの印象。
　ハリウッドでのリメイクに向け、作品を売り込みたい思惑が見え隠れする感じもあります。
　（トニー・レオンの出番作りなど、どうもこうした”人気取り”に見えてしまう）
　アクションを抑えたせいで、見せ場は少なく（サスペンスシーンでのテンションの盛り上げの手腕の冴えは相変わらずですが）、サイコ・サスペンスとしての性格上やむを得ないかもしれませんが、意識的に混乱させている時制のせいで、物語から振り落とされる危険性もあります。
　（「Ｉ」、「II」を観ている事は鑑賞の必須条件でしょう）

　ただし、ひとつの物語でありながら、同様な映画にせず、映画ごとに手を変え品を変え、別の作風の映画としてしまう、製作者の力量は大したもの。
　完成度では「Ｉ」に及ばないにせよ、「インファナル・アフェア」シリーズを締めてみせたこの映画、やはり見事なものだと思います。

　（４月２３日　ＴＯＨＯシネマズ海老名にて）

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