インファナル・アフェア ＩＩ
無間序曲

　これは、警察とマフィア、それぞれの組織の潜入者がたどる運命を描いた香港映画「インファナル・アフェア」の第２作。
　今度の映画が描く時代は１９９１年から香港が中国返還される１９９９年まで。
　前作の１０年前より始まり、登場人物にいかなる過去があったのかを明らかにする、と言うものになっています。

　前作、「インファナル・アフェア」は、香港映画らしからぬ緻密な構成に、完璧とも言えるサスペンス映画としての演出、そして、”香港ノワール”とでも言うべき、独特の映像世界で作り上げられた傑作でしたが、それでも、そのＰＡＲＴ２となると難しいのでは、と危惧感はありました。
　しかも、このＰＡＲＴ２がやろうとしているのは、「前日譚」。
　「その後」を描くのではなく、「その前」を描くとなれば、その後、どうなるのかは観客には判ってしまっている訳で、「刑事コロンボ」ではあるまいし、そんな”答え合わせ”みたいな映画が面白くなる訳がないだろう・・・と、あまり期待しないで行ったのですが・・・

　・・・いや、面白いです、コレ。

　前作で主役だった警察内に潜入した香港マフィアのラウと、警察の潜入捜査官・ヤンの若き日を、香港の若手人気俳優が演じる・・・と言う事にはなっていますが、この２人、実は、この続編では、映画の中心にはいません。
　（一応、前作の主役ですし、人気俳優を起用したせいもあって、それなりに画面には出ますが・・・仕方なく出ているような感じです(^^;）
　この映画の中心にいるのは、ヤンの上司のウォンと、ラウを送り込んだ香港マフィアのサム、そして、新たな登場人物として登場する、香港マフィアの大物の２代目、ハウです。
　マフィアの大物、クワンが暗殺された事で、やむを得ず裏家業を継ぐ事になったハウ。
　それまでの堅気の暮らしを捨て、裏社会の大物２代目としての修羅場に身を投じる事になったハウの苦悩。
　その苛立ちをぶつけるような、苛烈な父の報復、そして、それは新たなる報復を生み、悲劇と復讐の連鎖が続いて行くのです。

　まるで、シェイクスピアの悲劇のような、古典的とも言える重厚な人間ドラマ。
　静と動の緩急のリズムによって生み出される、息詰まるようなサスペンス。
　練り込まれた、緻密な構成の見事な脚本の出来映えは、前作を上回るものですし、ザラつき、冷え冷えとしたスタイルの映像も見事に独自の世界を作り出しています。

　勿論、問題がない訳ではなく、緻密な上に、あまりにも複雑なドラマと、スピーディーな展開は、時として理解し切れず、ドラマから振り落とされそうになります。
　また、ラウとヤンの扱い、特にヤンの葛藤が上手く描かれず、前作との矛盾を感じる部分もあります。

　もっとも、そんな問題、この傑作には僅かな傷でしかありません。
　前作を凌ぐような濃密なドラマに圧倒され、引き込まれ、映画を堪能した後、上映された完結編の予告には期待大。
　その前に、第１作をもう１度観たくなりました。

　（１０月１１日　川崎チネチッタにて）

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