インヒアレント・ヴァイス
これはトマス・ピンチョンの同題小説を「ザ・マスター」のポール・トーマス・アンダーソン監督が映画化したもの。
「サ・マスター」で主演したホアキン・フェニックスと再びタッグを組んでいます。
１９７０年代のロサンゼルス。
マリファナの常習者でもある私立探偵ドクは、ある夜、不意に自宅に現れた別れた恋人のシャスタからある相談を受ける。彼女は、不動産王のミッキー・ウルフマンの愛人になっていた。彼には妻がいるが、彼女は自分の愛人と共謀して夫のウルフマンを精神病院に送り込んで財産を頂戴する事を画策し、シャスタにも協力するよう迫っているのだと言う。
シャスタの依頼はウルフマンの妻の企みを阻止し、今の暮らしを続けたい、と言うこと。厄介な仕事だったが、かつて愛した女の頼みを断れるドクでもない。だが、調査を始めたドクは次々と厄介事に巻き込まれて……
主人公ドクを演じるホアキン・フェニックスは、常にマリファナで酩酊した、ふわふわとした独特の存在感を出し、また新たな表情を見せています。強面のジョシュ・ブローリンとのまるで噛み合わないコンビもいい感じです。
この映画、ストーリーはハードボイルド・ミステリーとして定番のもの。
私立探偵の元に謎めいた美女からの依頼が舞い込み､仕事を請け合うと、探偵の前に死体が転がり、依頼人は消え、謎と陰謀が口を拡げて……と言う流れではあるのですが、そこはＰ．Ｔ．Ａ、定番通りに仕上げては来ません。
事件は複雑に絡み合い、新たなネタが次々に提示されて、謎が謎を呼び、混乱を極めて行くのです。
映画予告編では、ドタバタコメディのような紹介をされていますが、映画本編は大笑いするようなネタはなく、コメディを期待して来た観客は、迷宮に踏み入るような物語に戸惑う事でしょう。
また、映画の語り口もハードボイルドから外れたもので、映画には登場しない若い女性がナレーションを務め、物語をを進めて行きます。
彼女ひとりが、この事件にタッチせず、物語のすべてが、彼女の口によって語られていきます。そして、不意にクルマの助手席に座っていたりもします……彼女は果たして誰なのか？――そんな意味不明な語り口、混沌とした状況……夢うつつのような、現実と幻覚が交錯する内容は、要はマリファナをキメたドクの見ている世界、と言うことではないでしょうか？
そう言えば、回想シーンを除けばシャスタの登場シーンは、夜間、唐突に部屋に現れると言うもので、これまた現実なのか幻覚なのか判りませんし、終盤のマリファナを貪り食うビッグフットの行為も、それが「いい加減、マリファナをやめろ」と言う意味だとすれば合点が行きます。
面白い映画、しっかりとした物語を期待されると肩透かしを食うと思いますが、夢の中のような混沌とした世界の中で繰り広げられる’７０年代絵巻は、これはこれで面白いものでした。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督・脚本
■出演
ラリー・“ドク”・スポッテーロ ・・・ ホアキン・フェニックス
クリスチャン・Ｆ・“ビッグフット”・ビヨルンセン ・・・ ジョシュ・ブローリン
（その他のキャスト）
オーウェン・ウィルソン キャサリン・ウォーターストーン リース・ウィザースプーン ベニチオ・デル・トロ
マーティン・ショート ジェナ・マローン エリック・ロバーツ マーヤ・ルドルフ セレナ・スコット・トーマス
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