| 鍵泥棒のメソッド |
これは、「アフタースクール」の内田けんじ監督、４年ぶりの新作。
内田けんじらしい、凝った脚本のコメディですが、今回は「アフタースクール」のような曲玉ではなく、以外にも直球勝負のラブコメディになっています。
裏社会の仕事人コンドウは、一仕事終えた後でたまたま銭湯に立ち寄った。同じ銭湯に来ていたのが、売れない役者の桜井。
ところが、コンドウは銭湯で転倒して気を失い、その隙に、桜井はコンドウの衣服と荷物を盗んでしまう。コンドウの高級車を乗り回し、分厚い財布からこれまでの借金を返して歩く桜井。
一方、コンドウは転倒のショックで記憶を失ってしまい、残された所持品から自分が桜井だと思い込んでしまう。
ちゃっかりコンドウに成りすました桜井だったが、やがて、ヤクザから厄介な「仕事」の依頼を引き受ける羽目になってしまう。
そして、そこに、突如、婚活を宣言した雑誌編集長の香苗が絡んで、事態は思わぬ方向へ転がって行き・・・
今回、内田監督が目指したのは「スクリューボールコメディ」だった、と言います。
「スクリューボールコメディ」とは、風変わりな人物が、つかず離れずの恋模様を演じるコメディで、今で言うラブコメディの一種です。
記憶喪失の殺し屋と、売れない役者が入れ替わってしまう、と言う設定ですが、記憶喪失と言うアイデアは目新しくなく、また、立場の違う人物が入れ替わって、と言うのもよくある話。
この映画を、面白いものにしているのは、結婚相手もいないのに、突然「わたし結婚することになりました」と宣言して婚活を始める、広末涼子が演じる香苗なのです。
「これまでやろうと思って出来なかった事は何一つない」と言い切る自信に、それを裏付ける用意周到さ。そして、それが故の、決して慌てず怒らず、笑いもしなければ驚きもしない、異様なまでに平静な性格。
彼女の存在が、この映画をスクリューボールコメディにし、尚且つ、他にない個性的なものにしました。
そして、この香苗の役に広末涼子を当てたのが凄くいい。
大体、広末涼子と言うのは、何処か浮き世離れしていて、年齢不詳の上に正体掴めず、常人とは異なる役でこそ、その真価を発揮する女優です。
（少女の身体に中年女性の心が宿った「秘密」のヒロインが、その代表例）
この映画で、久々に広末涼子の凄さを見た感じがしました。
じっくり時間をかけて練り上げられた脚本は、計算され尽くしてまとまり過ぎているのが欠点とさえ言えるような内容。
コンドウの仕事の内容が語られ、その正体が判って行くのは面白く、悪党には相応しい裁きが下されます。張られた伏線が綺麗に収束していく終盤の展開は気持ちいいくらい。
様々な見方の出来る物語で、これをコンドウと香苗のラブストーリーと観るもよし、また、桜井の成長を描く物語と観るのもいいでしょう。
まぁ、ラブコメらしく、最後は、落ち着く所に落ち着いてしまうのですが、それまぁ、こうした話ならば仕方ない・・・と言うか、それも内田監督の個性ですかね。
（月日 にて）
（作品データ）
■監督
■出演
桜井武史 ・・・ 堺雅人
コンドウ／山崎信一郎 ・・・ 香川照之
水嶋香苗 ・・・ 広末涼子
（その他のキャスト）
荒川良々 森口瑤子 内田慈 大谷亮介 三上市朗 林和義
ウダタカキ 池田成志 久野雅弘 本宮泰風 三村恭代 柊瑠美
李千鶴 中谷竜 ムロツヨシ 小山田サユリ 木野花 小野武彦
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入れ替わった人生、大金の行方、そして結婚――その先にはなんと、史上最高に爽快でトキメくラストが待っている!?
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