ヒミズ
これは、ヤングマガジン誌に連載されていた古谷実の同名コミックを、園子温が脚色・監督して映画化したもの。
映画準備中に東日本大震災が起き、映画の中にその現実を取り入れています。
主演の染谷将太と二階堂ふみは、ヴェネチア国際映画祭で、最優秀新人賞をＷ受賞した事も話題になりました。
また、その他の出演者は「冷たい熱帯魚」の面々が揃って出演しています。
映画の舞台になっているのは、津波で大きな被害を受けた東北の町。
主人公の住田は、母親が営む貸しボート屋を手伝う中学３年生。将来の夢は「普通に大人になって普通に暮らすこと」。
そんな住田の周囲には彼を慕って、津波で家や家族を失ったホームレスの大人たちが集まってくる。クラスメイトの茶沢景子も熱烈な住田信者で、住田の言葉を記録するばかりか、彼につきまとって何かと世話を焼こうとする。
最近、「冷たい熱帯魚」に「恋の罪」と、過剰なまでのエロ・グロ・バイオレンスを盛り込んで来た園子温監督ですが、本作では、さすがにエロ・グロは控えられています。
（ただし、暴力描写だけは相変わらずです）
なにせ、主人公が中学生ですし、この映画、基本、主人公に近い世代の若者向け、と言う狙いもあるのかもしれません。
そうした意味で、前２作に比べれば、ビジュアルインパクトの弱い本作ですが、挑戦的とさえ言えるメッセージ性の強い内容は相変わらず。
これまで毎回のように、壊れた家族の姿を描き、最早、「家族」と言う最小のコミュニティさえ「幻想」に過ぎない、と執拗に描いて来た園子温ですが、本作では、震災によって「壊された社会」を物語世界に盛り込んで来ました。
（ひょっとしたら、津波によって、何もかも流された結果、露わにされた現実、と言うつもりかも知れませんが・・・）
そして、映画は、「普通」に生きることが許されない少年が、「普通」になりたいと願ってもがく姿を描きます。
それを、地震と津波と放射能汚染でもはや普通に生きる機会を奪われてしまった震災後の被災地で生きる人々に重ねているのは、さすがにやり過ぎかも知れません。
でも、「普通」の暮らし、「普通」の未来・・・そんなものは幻想で、もう手に入らないのが今を生きる者にとっての現実なのだ、と言うのはいつもの園子温監督映画。
でも、この映画はそれで終わらない。
絶望的な現実の中、それでも少年は暴力の連鎖を断ち切り、「普通」の未来を目指して走り出す。
「がんばれ」と叫び、朝日に向かって走る、そんな「青春映画」を園子温監督が撮るとは思いませんでした。
（月日 にて）
（作品データ）
■監督
■出演
住田祐一 ・・・ 染谷将太
茶沢景子 ・・・ 二階堂ふみ
（その他のキャスト）
渡辺哲 諏訪太朗 川屋せっちん 吹越満 神楽坂恵 光石研 渡辺真起子
モト冬樹 黒沢あすか 堀部圭亮 でんでん 村上淳 窪塚洋介 吉高由里子
西島隆弘 鈴木杏 裵ジョンミョン 木野花
■コピー
「生きろ」と、君が言った。
■Ｌｉｎｋ
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