冷たい熱帯魚
この素晴らしき世界
これは、海外で高い評価を受ける園子温監督が、実際に起きた連続殺人事件をモチーフにしたサスペンス映画。
モデルとなった事件は、ペットショップで犬のブリーディングで投資を持ちかけ出資者の愛犬家を殺害していった、と言うものですが、映画では、設定を熱帯魚店に変えています。
主犯格が、死体処理することを「透明にする」と言っていたなどと言う部分も取り入れられているそうです。
映画１本￥１８００円もする日本では、観客は、映画に娯楽や笑いだけでなく「感動」を要求します。
（宣伝で、やたら「泣ける」を押し出すのが、そのいい例）
でも、「感動」が心が震える事を意味するなら、これは正にその種の「感動」を生む映画だと言えるでしょう。
感動とは、心温まり涙を流すのが全てではないはずです。
小さな熱帯魚店を経営する社本信行の家庭は冷え切っていた。
年の離れた後妻の妙子と、反抗期の娘の折り合いが悪く、家庭は崩壊寸前。
ある日の事、娘が万引きをした、と呼び出されたスーパーで、社本は村田と言う男と出会う。
市内で、大きな熱帯魚店を経営する村田は、スーパー店長の怒りを鎮め、その場を収めてくれただけでなく、娘を住み込みで自分の店で働かせよう、と申し出たのだ。
いささか強引だが、窮地を救われた恩もあり、気弱な社本は村田の提案を受け入れてしまう。
数日後、村田に呼び出された社本は、村田の恐ろしい裏の顔を知ることになる・・・
「救いのない話を作りたい」と言う園子温監督の言う通り、これは、全く救いのない、戦慄すべき作品。
気弱な主人公、社本は、妻子を守る為に村田の言いなりになって犯罪に手を染めます。
でも、その守るべき妻子、いや家庭が自分にはない、と思い知らされた時、社本は違った表情を見せます。
要は、何も持っていない、守るべきもののない人間に怖いものはない・・・ただ、「自分」だけの人間。それは、社本が村田の側の人間に踏み出した、と言うこと。
そして、そう言う人間が増えた、現代社会そのものに村田のような人間を生み出した理由がある、と・・・
終盤の展開も衝撃的です。
特に、ラストシーン。父親の最後の命がけの娘へのメッセージが娘の心に届かない、と言う所に、崩壊し切った家族の寒々とした風景を見ました。
（月日 にて）
（作品データ）
■監督
園子温
■出演
社本信行 ・・・ 吹越満
社本妙子 ・・・ 神楽坂恵
社本美津子 ・・・ 梶原ひかり
村田幸雄 ・・・ でんでん
村田愛子 ・・・ 黒沢あすか
（その他のキャスト）
渡辺哲 諏訪太朗 裵ジョンミョン 三浦誠己 芦川誠 坂田雅彦 瀬戸夏実
中泉英雄 阿部亮平 山根和馬 橋本一郎 小出志浩 龍坐 伊藤竜翼
斉藤リナ 赤崎菜美子 竹垣綾香 三ツ井菜々花 古藤ロレナ
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この素晴らしき世界。
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