山のあなた
徳市の恋
これは、「鮫肌男と桃尻女」、「茶の味」の石井克人監督が、日本映画の巨匠、清水宏の名作「按摩と女」をリメイクしたもの。
物語は、昭和初期、ある山間の静かな温泉宿。
按摩の徳市は、相棒の福市と共に、この季節になるとこの宿場で仕事をする為に訪れる事にしていた。
そこで、徳市は、東京から来たと言う謎めいた美女、美千穂と出会う・・・
この映画、奇妙な雰囲気の映画です。
鮮やかで色美しい現代のフィルムで描かれながら、その中身は、戦前の日本映画そのまま。
目線で動かないカメラ、長回しのカット・・・台詞回しや演出も、現代のものではありません。
石井監督は、これを「リメイク」ではなく「カヴァー」と言っているそうですが、実際、これはオリジナルを最新機材で撮影し直しただけ、と言ってもいいものになっています。
もっとも、そこにあるものを撮ったオリジナルに対し、これは昭和初期から作らねばならないのですから、大変だったろうと思います。
そうした苦労で作り上げた、昭和初期の温泉宿、その風景は素晴らしいですし、俳優の頑張りもすごい。
美千穂役のマイコは、映画初主演ながら、堂々の演技。
多少のぎこちなさはありますが、今にも”昭和の女”らしい古風で淑やかな物腰を実現しているのには魅了されました。
それ以上の頑張りは、何と言っても草なぎ剛です。
演技巧者の加瀬亮が霞んで見える程の、存在感に、ＳＭＡＰのタレント、草なぎ剛のイメージをぶち壊してしまい兼ねない演技。
恐らく、オリジナルの演技を研究したのでしょう。草なぎ剛のひたむきな役作りには感心するばかりです。
そうして作り上げられた映画世界は見事ですし、元の映画がいいのだから、これも悪くなる訳がない。
でも、ここまでやるなら、それこそオリジナルを観ればいいんじゃないか、と思ってしまうんです。
名曲のカヴァー、それはよくあること。
でも、例えば「ビートルズ」のカヴァーをするのに、歌い方は勿論、楽器や服装まで同じにしてしまったら？
やはり、カヴァーするにも、そのアーティストの「らしさ」は必要でしょう。
この映画、その「らしさ」を何処かに置いて来てしまったのではないでしょうか？
完成度は高く、その内容も勿論いいのですが、そんな事がちょっと気になりました。
（５月２４日 １０９シネマズＭＭにて）
（作品データ）
■監督
石井克人
■出演
徳市 ・・・ 草なぎ剛
三沢美千穂 ・・・ マイコ
福市 ・・・ 加瀬亮
（その他のキャスト）
広田亮平 宮永リサ 黒川芽以 津田寛治
三木俊一郎 田中要次 森下能幸 末永遥
金田美香 尾野真千子 伴杏里 野村佑香
白仁祐介 大山健 阿部ジュン 驫木一騎
三浦友和 友田稔 円城寺哲郎 新井浩文
関根大学 渡辺えり子 松金よね子 洞口依子 堤真一
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見えない目で あなたを見つめていた。
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