夜のピクニック
土曜日の夜、ＭＯＶＩＸ本牧で「夜のピクニック」を観ました。
確かに地味な映画ではあるけれど、土曜の夜だと言うのに、劇場には観客２名・・・大丈夫なんだろうか、映画も映画館も。
これは、第２回本屋大賞となった恩田陸の同題小説を映画化したもの。
（ちなみに第１回の受賞作は「博士の愛した数式」で、これも映画化されました）
恩田睦の出身校の茨城県立水戸一高で今でも続く伝統行事「歩行祭」を舞台にした青春映画です。
物語の始まりは、「鍛錬歩行祭」の当日朝。
一昼夜をかけて全校生徒が８０kmを歩く、高校名物のイベントに際し、３年生の甲田貴子はひそかな目標があった。一度も話したことのないクラスメイトの男子、西脇融と話をすること。
どうしても融を意識してしまう貴子に、友人たちは、てっきり告白をするものと思い込んでいたが、実は、貴子と融には人には言えない秘密があった・・・
貴子を演じた多部未華子は、「ＨＩＮＯＫＩＯ」でデビューし、最近、松竹が売り出している若手女優だけど、一重瞼で三白眼気味の瞳に険があるのは好き嫌いが分かれるでしょう。まぁ、人に言えない秘密を抱え、それを頑なに守ろうとする今回の役には合っているようには思いました。
融役の石田卓也も、最近の若手俳優には珍しいとも言える強面のタイプ。現代劇よりも、時代モノが似合いそうな感じです。（実際、「蝉しぐれ」で日本アカデミー賞の新人賞獲っていますが）
２４時間、全校生徒１０００人で行列を作ってひたすら歩く。
疲れと夜の闇、イベントに対する高揚感と連帯感が、普段は見せない級友の本当の姿を引き出す。そんな高校生の特別の一夜を見せよう、と言う素材は魅力的なもの。
ただ、惜しいのは、そんな一夜に繰り広げられるキラ星のようなドラマを、１本の物語として織り上げられなかった事でしょうか。
確かに、これだけのエピソードをまとめる背骨としては、貴子と融のエピソードはいささか弱い感じもします。それでも、若者にありがちな思い込みがこじれさせた関係が、長い夜の葛藤の末に、朝日と共にほぐれて行く、と言う展開は普遍的な感動を呼ぶもので、これをきちんと描き切って欲しかったように思いました。
また、単調に成りがちに思える展開を補おうとしたのか、ファンタジー風なアニメや、過剰にコミカルなエピソードを挿入した辺りはどう見ても空回り、せっかくの叙情性を削いだ感じもありますし、何よりも製作者が、この素材の魅力に疑問を感じているようで、ちょっと残念。
若者が体力の限界に挑み、その中で自分でも知らなかった己自身を知る。
この「歩行祭」は素晴らしいものだと思うし、それを伝統行事として続けて来たのも立派なことだと思います。
それは、実際にそれを体験した（多部未華子自ら監督に進言し、主要キャストとスタッフで実際に１日かけて６０kmを歩いてみたのだとか）製作者自体が承知している事でしょう。
そんなイベントを疑似体験出来ただけでもよかったと思えるこの映画、もっと自信をもって直球勝負して欲しかったのですが・・・
（１０月７日 ＭＯＶＩＸ本牧にて）
（作品データ）
■監督
長澤雅彦
■出演
甲田貴子 ・・・ 多部未華子
西脇融 ・・・ 石田卓也
（その他のキャスト）
郭智博 西原亜希 貫地谷しほり
松田まどか 柄本佑 加藤ローサ
高部あい 池松壮亮 尾上寛之
徳井優 温水洋一 大塚良重
田山涼成 嶋田久作 南果歩
■原作
恩田陸
■コピー
特別なこの日だから 私は秘密の賭けをする
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