約三十の嘘

「ひとつの嘘のためには、三十の嘘を用意しなさい」　サルバトーレ・ワコン

　月曜日、久々に会社を早めに上がり、ＷＭＣ海老名へ。
　今日のお目当ては「約三十の嘘」。

　これは、椎名桔平、中谷美紀、妻夫木聡、田辺誠一など、実力派の俳優を揃えた映画。
　人気劇作家・土田英生の同名戯曲を「とらばいゆ」の大谷健太郎監督が映画化したものです。

　関西から北海道へ向かう豪華寝台列車「トワイライトエキスプレス」。
　その列車に、４人の詐欺師が３年ぶりに集まって、次の仕事に向けて乗り込んだ。
　新参者や、前回の仕事の時の裏切り者（？）も加わって、６人となった詐欺師集団は、ちょっとギクシャクしたりもしながらも仕事の準備を始めるが・・・

　この映画、人気俳優演じる少し怪しい６人組による華麗なる犯罪劇、と言う事で、和製「オーシャンズ１１」みたいな内容を期待していると、これが見事に裏切られます。

　これは、詐欺師の映画でありながら、彼らの”仕事”は殆ど描かれず、映画は、仕事を行う北海道へ行き来する寝台列車の中だけで展開します。
　走る列車の中は、どこへも逃げ出せない、ある意味「密室」。
　この映画、そうした「密室」で展開する会話劇なのです。

　結局、登場人物が詐欺師と言うのは、この会話劇をスリリングにする為の設定なのですね。
　全員が「嘘」のプロフェッショナル。
　通常なら誹り言葉となる「嘘つき」と言う言葉も、彼らにとっては、それが仕事なのですから誹りにはなりません。
　そうした詐欺師同士がお互いを出し抜こうとする密室会話劇、これは確かに戯曲向きの物語です。
　しかも、これを群像劇とし、コミカルタッチで描く・・・これは、日本映画にあまり見かけないスタイルです。

　もっとも、この映画、犯罪を描くと言うよりも、本当に狙っているのは、人間ドラマ。
　何か欠けている者同士が、それを埋め合わせる為に集まり、そして、お互いに距離を測るようにしながら近付いていく。
　これは、そんな寂しい人間を描いた人間ドラマであり、大人の恋愛ドラマでもあると言えるでしょう。

　クレイジーケンバンドによる音楽のセンスもいいし、実力ある俳優の芝居をじっくりと見せる辺りもいい。
　会話劇と言う割にはテンポがよくないのが難点と言えばそうですけれど、期待していた内容とは違うものでありながらも、結構楽しめた１本でした。

　（１月１７日　ＷＭＣ海老名にて）

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