「刑務所の中」

　「８人の女たち」に続いて、シネマライズ前、パルコ３内のシネクイントで、「刑務所の中」。
　とと、まだちょっと時間があるな、と言うことで、まずは軽く腹ごしらえ。
　それからシネクイントに行くと、パルコ５階からの列が出来ている。まぁ、このくらいの列なら充分座れる筈なので、列につくと間もなく入場となりました。
　結局、場内、概ね７分の入り、と言う所。これも結構な人気のようです。

　これは、漫画家、花輪和一が自らの体験をまとめたマンガ、「刑務所の中」を映画化したもの。

　ガンマニア趣味が高じて銃刀法違反及び火薬取扱い法違反で懲役３年の実刑を食った花輪和一は、日高刑務所に入所。
　雑居房での囚人生活が始まる。
　朝６時４０分起床、点検、食事、作業、食事、作業、食事、点検、そして９時就寝。
　規則正しい生活、厳格な規則、正に究極の管理社会。
　服役囚の楽しみは食べる事に集中していく・・・

　原作のマンガ「刑務所の中」は、相当のヒットになったのだけど、その内容は、刑務所生活を淡々と記録したもので、何らドラマティックなものではありません。
　こんな内容で映画になるのか、って思うんだけど、映画は、その原作を、ほぼそのまま映画化（冒頭に、花輪和一が実刑を食うに至った原因となるシーンが追加されているのみ）したのにも関わらず、これが面白いので困ってしまいます。
　主人公のモノローグ、そして表情で、原作のコミックの世界を見事に映画化し、そしてそれがエンターテイメントになる、これは見事な映画化作品です。

　何が面白いかって、刑務所生活の異常さと、受刑者がその中で、それに適応して生きている、って部分に面白さがあるのです。
　何をするにも刑務官に「願います」と申請して、許可を得ないと出来ない（大小便すらも）現実。
　ＴＶも観られる、本も読める、でも、クロスワードパズルはダメ、と言う不条理。
　いや、そもそも、国家の法に背き、人を殺め、罪を犯した人間に３食と寝場所を与える、刑務所と言う存在の不条理を、この映画は描いているのです。

　ただ、それがリアルに描かれるだけでは、ドキュメンタリーになるだけなのですが、それをエンターテイメントにしてしまうのが、花輪和一の視点と解釈なのです。
　そして、それを映画化した崔洋一監督、また、見事に演じきってみせた、主演の山崎努の力量、恐るべし。

　しかし、この映画で描かれる刑務所生活が妙に魅力的に思えるのには参ってしまいます。
　相当の自由と、プライバシーはなくなるにせよ、日々の糧を稼ぐ苦労から解放され、３食と寝場所は与えられ、規則正しい生活が送れる。
　実際に罪を犯して刑務所に入るのはイヤだけど、こんな暮らしをしてみてもいいんじゃないか、って思えるこの映画って、やはり困ったものだなぁ。

　（１月５日　渋谷・シネクイント）

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