女神の見えざる手
Ｍｉｓｓ Ｓｌｏａｎｅ
これは、アメリカ社会を陰で動かすと言われる“ロビイスト”の戦いを描く映画。
監督は「恋に落ちたシェイクスピア」のジョン・マッデン。主演は、「ゼロ・ダーク・サーティ」でも男勝りのプロフェッショナルを演じたジェシカ・チャスティン。
大手コンサルティング会社で、花形ロビイストとして活躍するエリザベス・スローン。
ある日、会社が銃愛好者支持団体から銃規制法案の成立阻止の依頼を請け負い、エリザベスをその仕事に宛てようとするが、彼女はそれに反発。仕事を断るだけでなく、銃の所持に反対する姿勢を見せる小さなロビー会社の誘いに乗り、部下と共に移籍してしまう。
そして、エリザベスは元いた会社のロビイスト相手に、銃規制法案を通過させるべく活動を行うのだが……
この“ロビイスト”と言う職業、言ってしまえば“根回しのプロ”。日本では余り馴染みがない存在ですが、それだけにこの映画は興味深く観ました。
本作の脚本は、元・弁護士と言う新人のジョナサン・ペレラが自身の経験を元に独自に書き上げたものだそうで、その面白さが着目されて映画化された、と言う経緯だそうです。それだけに、現実に即しているであろう、その内容は確かに面白い。
中でも、主人公のエリザベスのキャラクターは強烈です。
勝つ為には手段を選ばず、人情は勿論、倫理観も法律も全て無視、それどころか我が身を犠牲にするのも省みません。
彼女は１日１６時間を会社で働き、家事などしたくないので会社傍のホテル暮らし。食事は速くて空腹を満たせればよいので中華ファーストフードオンリー、寝る間も惜しいので強力な眠気止めを処方して貰い、それに興奮剤を服用してホテルでも明け方まで働き続ける。家族関係はなく、性欲はホテルに男娼を呼んで済ませる、と「２４時間働けますか？」のエコノミックアニマル顔負けの仕事ぶり。
映画は、そんな彼女の戦いっぷりを詳細に描く一方で、その背景や心情を一切描かず、何故、銃規制にそこまで拘るかの理由を示しません。その点、人間ドラマとして不満を感じる人もいるかも知れませんが、逆にサスペンスとしての魅力は増しました。
クライマックスとなるのは、敵方ロビイストの工作で、エリザベスを社会的に葬ろうとすべく仕掛けた聴聞会。ここで、最後に彼女が仕掛けた罠が強烈なのです。
「敵が勝負を決めるカードを放った後に最後のカードを切る……それが切り札」
と言う言葉通りの大逆転劇は痛快で、これには痺れました。
全て計算ずく、全てを勝利の為に賭ける彼女が最後に明かした秘密……なるほど、これは強い。
人は何の為に働く、いや、戦うのか――この映画は、通して観れば、仕事と言うもの、そして、職業倫理をを問う物語。
ロビイストの仕事が縁遠いものだったとしても、「働く」と言う部分で、多くの人に考えさせられる部分を含んでいる事でしょう。
これは面白い映画でした。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
ジョン・マッデン
■出演
エリザベス・スローン ・・・ ジェシカ・チャステイン
（その他のキャスト）
マーク・ストロング ググ・バサ=ロウ アリソン・ピル マイケル・スタールバーグ ジェイク・レイシー サム・ウォーターストン
ジョン・リスゴー デヴィッド・ウィルソン・バーンズ ラウール・バネジャ チャック・シャマタ ダグラス・スミス メーガン・フェイヒー
グレース・リン・カン ノア・ロビンズ セルジオ・ディ・ジオ ジョー・ピングー マイケル・クラム ディラン・ベイカー ザック・スマドゥ
アレクサンドラ・カスティージョ ジャック・マーリー クリスティン・バランスキー
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彼女がアメリカを「毒」で正す――。
■Ｌｉｎｋ
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