スターシップ９
ＯＲＢＩＴＥＲ ９
これは日本では公開される事が珍しいスペインのＳＦ映画。
近未来、未知の惑星を目指し、恒星間航行を続けている宇宙船。乗組員は、その船で生まれ、２０歳になるエレナただひとり。３年前に酸素供給装置が故障し、両親はエレナを生かすため船外に出てしまったのだ。
そんなある日、救難信号を受けてやって来たエンジニアのアレックスが船にやって来て……
この映画、ハリウッドの大作ＳＦに比べ、はるかに低予算な映画ですが、なかなか本格派のＳＦ映画になっています。
恒星間宇宙船の中、美女とエンジニアの２人っきり、と言うシチュエイションから、「パッセンジャー」と比較する人もいるでしょうけど、ＳＦとしては勿論、映画としての面白さもこちらの方が上、と思える程です。
最初のうちは、ちょっと安っぽい宇宙船内、限られた外部の情報、そして、近未来と言う設定なのに、人工重力をどのように生んでいるのだろう？と言う疑問を感じさせますが、それも、その後の急展開で腑に落ちる仕掛け――ネタバレになるので詳しくは書きませんが――そんなアイデアは面白く、それを二転三転する物語で退屈させる事なく終盤まで引っ張るのもいい。
判り易くラブストーリーを軸にしていますが、終盤の決着のつけ方は、ちょっと物足りなかった「パッセンジャー」に対し、こちらはＳＦ的にも納得の行くものでしょう。
また、監督のアテム・クライチェは元々脚本家で、長編映画はこれが初めてと言う事ですが、これがなかなか手慣れたもの。説明的な台詞を極力使わず、映像で語らせ、音楽で盛り上げ、俳優の内面を表現する演技を引き出す、と言う姿勢には好感が持てます。
彩度とコントラスト弱めの映像も独特の作品世界を描き出していますが、シーンによってはピントがはっきりしてない印象があったのはちょっと気になった所です。
ヒロインのエレナを演じるクララ・ラゴは、いかにもスペイン美女らしいエキゾチックな美貌と健康的なプロポーションが魅力的。生まれてから船内しか知らず、両親以外の人間に会った事もない、と言う無垢なエレナが、“世界”に出会うシーンの初々しさにはやられました。
恒星間移民を、現在の移民問題に絡め、尚且つ、それをスペインにとっての“新世界”である南米・コロンビアで撮影する、と言う社会問題を映し出す社会派目線もあり、低予算ながらセットや美術なども工夫してセンスよく見せており、これは大したものだと思います。
限られた予算の中で、欲張らずに完成度の高い映画を作り出す、と言う実例を見せられて、日本映画に何故これが出来ないのか、と思ってしまったりもしました。
（２０１７年 ８月１３日 ヒューマントラストシネマ渋谷にて）
（作品データ）
■監督
アテム・クライチェ
■出演
エレナ ・・・ クララ・ラゴ
アレックス ・・・ アレックス・ゴンサレス
（その他のキャスト）
ベレン・ルエダ アンドレス・パラ
■コピー
人類の運命×二人の宿命
■Ｌｉｎｋ
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