パッセンジャー
PASSENGER
これは、恒星間宇宙船船内と言う特異な状況における男女の運命を描くＳＦロマン。
監督は、「イミテーションゲーム」のモーテン・ティルドゥム。
乗客５０００名を乗せて植民惑星に向けた１２０年の航行を続けている大型宇宙移民船アヴァロン号。乗客は、その間人工冬眠状態にあり、到着３ヶ月前に目覚めるのだ。
だが、宇宙塵との衝突によりシステムにトラブルが発生、乗客のひとりジムが、予定より９０年も早く冬眠から目覚めてしまう。乗組員も全員冬眠状態にあり、船は全自動で航行している。地球へ通信しようにも、電波が地球に着くまでに３０年かかる距離だ。そんな状態で、ただひとり、冬眠に戻ることも出来ず、船内で一生を終えるしかない、と言う現実を思い知ったジムは……
この映画、「乗員・乗客が人工冬眠中の恒星間宇宙船内でただひとり目覚めたら？」と言うＳＦとして面白いアイデアを軸に、「２００１年宇宙の旅」と「タイタニック」を合わせたようなサスペンス＆ラブロマンスを盛り込んだ物語。
美しさと、説得力のあるＳＦ考証による宇宙船のデザインはなかなかで、ビジュアル的にはなかなか本格的なのですが……物語の中心は、意外にも人間ドラマとラブロマンスに置かれています。
物語冒頭、ジムの目覚めからひとりぼっちの暮らしと言うのは、さしずめ「衣食住を保証されたロビンソン・クルーソー」と言う趣。
そうして、ジムの絶望的な孤独と、そこから生まれる人恋しさに感情移入させ、そして彼の“決断”に説得力を持たせておいて、その後は目覚めたオーロラとのラブストーリーへ――ただ、この恋は、孤独の苦しむ男が奸計の末に恋人を得たようなもの。この仕掛けがバレて、修羅場となる事で、女の可愛さだけでなく怖さをも描きます。逃げ場もなければ相談相手もいないこの状況はなかなか恐ろしいシチュエイションでしょう。
このように、男女関係描写については、その楽しさだけを描くのではなく、それは“人生を賭けた闘い”なのだ、とする部分も含めて見応えがあります。
主演はクリス・プラットとジェニファー・ローレンスで、何となく“小物感”のあるクリス・プラットに対し、若手トップ女優のジェニファー・ローレンスと言うキャストが、作中のジムとオーロラの位置づけそのままなのも効果的。
また、ジェニファー・ロ−レンスは、これまでの垢抜けなかった印象から一変、洗練された魅力的な女性を演じて、見事なまでに“高嶺の花”になっているのもいい。
しかし、この映画、ＳＦとしては物足りない、と言うか、勿体ない、と言う印象。
トラブルによりジムが起きた事、そして終盤の展開の何れも偶然、としたのは余りに工夫が足りないと思った部分で、ここは、航行中のトラブルが起きた時に、それを解決し得る人間を起こす、と言うようなプログラムが用意されていた、と言う設定の方が納得出来ます。また、最後も目的の植民惑星に到着するような起死回生の一工夫が欲しかった所で、クライマックスのサスペンスも盛り上がりに欠けていましたし、ラストシーンのいささかファンタジックな映像も、ちょっと綺麗事にし過ぎた感じです。
確かに、ラブロマンスとしては十分以上の仕上がりだとしても、この舞台、この設定を活かした、ＳＦを見せて欲しかった、と言うのが正直な所です。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
モルテン・ティルドゥム
■出演
ジム・プレストン ・・・ クリス・プラット
オーロラ・レーン ・・・ ジェニファー・ローレンス
（その他のキャスト）
マイケル・シーン ローレンス・フィッシュバーン アンディ・ガルシア
■コピー
乗客５０００人 目的地まで１２０年 ９０年も早く２人だけが目覚めた理由は１つ――
■Ｌｉｎｋ
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