これは、「エコール」のルシール・アザリロヴィック監督の新作。

　１０歳になるニコラは、人里離れた孤島の海岸に近い村に母親と暮らしている。この島には何故か少年と女性しかいない。
　ニコラはある日、海中で死体を見る。だが、誰もそのことを取り合おうとはしない――何かが変だ……日常に疑問を抱き始めたニコラは、夜半に出かける母親の後をつけ、母親が海岸で女性らを“ある行為”に耽るのを見る。
　やがて、ニコラは病院に収容され、他の少年と共に奇妙な措置を施されて……

　これは、性――特に母性と妊娠――をテーマとするダークファンタジーです。
　社会的弱者である少年たちが庇護者である母親――女性たちによって“妊娠と出産”を担わされている……と言う構図は、現実社会を男女反転させたものと言えるでしょう。
　社会を支配する男性から、女性は性の“妊娠と出産”を担わされ、その一方で男たちは、愉しみとしての性を享楽する、と言う社会構図は、これを反転させた時に如何にグロテスクに見えるのか、と言うのを突きつけるものだと思います。
　また、監督自身も女性だけに、子を孕み、生み出すと言う自らの性に対する不気味さを、男性にも知らしめる目的があったように思います。
　そして、そうしたテーマを内包する、その世界観は薄気味悪く、居心地悪く……嫌悪感を覚えつつも、異様な存在感と美しさを持つように描かれていています。

　ただ、この映画、なかなか判りづらい。
　女たちの正体や、少年たちの運命がはっきりとしない辺りもそうですが、まぁその辺りはファンタジーとして許容出来るものの、島からニコラを救い出そうとする看護師のステラの想い……恐らくは“愛”に近いであろうそれが、どうにもはっきりしないのが気になりました。
　確かに、これは台詞で語る種類の映画ではなく、映像でもって語る、そのシーンからそうであろうとは思えるのですが、愛だとすればちょっと陳腐だし、そうでなければ一体何が彼女をそうさせたのか？
　ラストに救済となるシーンを置くための展開、と言うのは判るのですが、どうにももどかしい感じがしました。
　

　（２０１６年　１１月３０日　シネマジャック＆ベティにて（併映：「ネクター」））

（作品データ）

　■監督・脚本

ルシール・アザリロヴィック　

　■出演

　ニコラ　・・・　マックス・ブラバン

　ステラ　・・・　ロクサーヌ・デュラン

（その他のキャスト）
　シュリー＝マリー・パルマンティエ

　■コピー

そこはユートピアか、ディストピアか。　

　■Ｌｉｎｋ

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