| あやしい彼女 |
これは、７３歳の老婆が、突如２０歳の姿になってしまう、と言うコメディ映画……この設定からも判るように、これは２０１４年の韓国映画「怪しい彼女」の日本版となります。
この「怪しい彼女」、既に中国版（「２０歳よ、もう一度」）も製作されており、今回は日本版としてどのようにアレンジしたのかを楽しみに観に行きました。
７３歳になる瀬山カツは、頑固で口うるさく、周囲に諍いが絶えないトラブルメーカー。ことあるごとに大手出版社で編集長を務めるキャリアウーマンの娘の幸恵を自慢して、周囲から煙たがられていた。
そんなある日、担当する雑誌の不振で編集長を下ろされた幸恵は、そんな母に日頃の鬱憤を爆発させ、喧嘩となってしまう。
激発して家を飛び出したものの居場所のないカツが街を歩いていると、見た事もない写真館が目に止まった。ショウウィンドウに飾ってあった憧れのオードリー・ヘップバーンに惹かれるように店内に入ったカツが写真を撮影すると……
２０歳に若返ったカツを演じるのは、多部未華子。
彼女、実は歌には自信がないそうで、この作品に出演する為、クランクイン前に３ヶ月の特訓をして歌唱シーンに臨んでいますが、共演の要潤ですら吹き替えではないかと疑ったと言うくらい見事に歌い上げています。あまり器用には見えない多部未華子ですが、その役作りには毎度感心させられます。
また、外観が２０歳の老婆、と言う難役を、倍賞美津子演じるカツのイメージを持たせて演じる他、白目剥き出しの失神シーンなど変顔をも辞さない、コミカルからシリアスまで幅広い演技をカバーして、「怪しい彼女」オリジナルのシム・ウンギョン、中国版のヤン・ズーシャンに決して劣らない“怪しい”ヒロインを演じています。
ただ、シム・ウンギョン同様、“正当派美人”からは外れる多部未華子はルックス的にはちょっと……ここは、“昭和的ヒロイン”のイメージを持つ能年玲奈とか成海璃子を起用していたら、と思ってしまい
ましたが……
物語は「怪しい彼女」と基本同じで、暴走コメディが得意な水田伸生監督にしては意外にもギャグは控えめ。
日本版アレンジのポイントとしてはカツが夫を亡くす理由を「戦争」に求められなかった日本版ならではの工夫として、カツと次郎を戦災孤児にした事と、カツのひとり子を娘にして、母と娘の物語にした事が上げられるでしょう。
特に後者のアレンジは効いていて、クライマックスのカツの決断の涙腺刺激度は、中国版を超えオリジナルに匹敵するもの。これはさすがに泣かされました。
もう一工夫欲しかったのは、カツが憧れるアイドルで、中国版はテレサ・テンにしたのです。日本版ならば、ここは“焼け跡ヒロイン”美空ひばり、として欲しかったようにも思いました。（ただ、そうすると歌曲が限定されちゃうかな……）
また、カツの輸血シーンを冒頭に持って来る他、シーンの繋がりが今ひとつだったのも気になった所です。
それにしても、よい話は、どうアレンジしてもちゃんと面白くなるものだ、と言う事をあらためて認識。オリジナル、中国版、日本版と３度目の鑑賞となるのに、またしてもしっかり楽しめ、涙してしまいました。
そして「怪しい彼女」、更にベトナムでの製作も企画されているとか……同じ話をアジア各国で作るこの試み、そうした企画面も面白いものだと思います。
（２０１６年 ４月 １日 ＴＯＨＯシネマズ上大岡にて）
（作品データ）
■監督
水田伸生
■出演
大鳥節子／瀬山カツ（２０歳） ・・・ 多部未華子
瀬山カツ（７３歳） ・・・ 倍賞美津子
瀬山幸恵 ・・・ 小林聡美
（その他のキャスト）
要潤 北村匠海 金井克子 志賀廣太郎 三鴨絵里子 越野アンナ
久保佑太 ｋｉｌｔ 田村健太郎 温水洋一
■コピー
いきなり、２０才<ハタチ>。
■Ｌｉｎｋ
［戻る］