ベテラン
これは、「ベルリンファイル」のリュ・スンワン監督が「国際市場で逢いましょう」のファン・ジョンミン主演で製作した社会派アクション。
ソウル警視庁のベテラン刑事ソ・ドチョルは、製作に協力した映画完成披露パーティーでシンジン財閥の御曹司チョ・テオに出会う。好き放題に振る舞うテオに、ドチョルは「犯罪だけは犯すなよ」と忠告した。
その数日後、ソウル市内のシンジン物産本社ビルで自殺未遂事件が起きる。
自殺未遂を起こして病院に担ぎ込まれたのはドチョルとも親しいトラック運転手。運転手の息子の証言から、彼が勤務先の給与未払い問題で本社に乗り込み、そこで理不尽な暴力を受けていた事が判った。これは“自殺”ではない、と確信したドチョルは事件を調べ始めるが……
ドラマの“悪役”と言うのは、その時代を映す鏡になるものですが、この映画で、その“悪役”となるのは、現実に韓国で絶大な権力を持つ財閥の跡継ぎとなる子息。
現実にも２０１４年に大韓航空で財閥一家の娘が引き起こした、所謂“ナッツリターン事件”で、国際的にも注目を集める事になりましたが、裕福な財閥関係者が横暴な振る舞いをする、と言う現実に韓国市民が鬱憤を抱えていると言うのがその背景にあるのでしょう。
ただ、この映画、財閥の御曹司が“バカ息子”だった、と言うのではなく、財閥そのものが問題だ、と言う視点が鋭い。映画の中で財閥の会長が出席する会議出席者がおむつを着用する場面に代表されるのですが、まともな企業集団ではなく、血縁の一族内での権力闘争に明け暮れるファミリー稼業なのだ、と言うのです。その“ファミリー”の中だけが特別で、それ以外の人間などどうなってもいい、と言うのが財閥の中の人間の問題だ、と言う主張はよく言ったものだ、と感心します。（この映画を製作したＣＪだって韓国最大の財閥、サムスングループの企業なんですからね）
映画の主人公はドチョルを演じたのはファン・ジョンミン、上司役は「国際市場で逢いましょう」でも共演していたオ・ダルスで、これはさすがに名コンビ。オ・ダルスもなかなか見せ場を作ります。
惜しいのは、この２人以外の捜査チームメンバーがパッとしない事で、紅一点のミス・ポンにしても、ここは「美人だけど性格が残念」と言うようなキャストを望みたかった所です。（演じているチャン・ユ
ンジュはモデルと言う事でスタイルはいいのですけどね……）
内容は、韓国映画らしく、アクションあり、笑いありの盛り沢山。前半部に遊び要素を盛り込み、中盤以降でシリアスに振ってドラマを盛り上げると言うのも韓国映画ならではの筋運び。捜査チームが結束して犯人を追うのはお約束だけど悪くなく、最後にテオを窮地に追い詰めるのが市民の目とカメラ（＝スマホ）だと言うのも、財閥に対して市民が「見ているぞ」と言う意思表示でしょう。
韓国では大ヒットしたそうで、これはシリーズ化もあり得る映画ではないでしょうか。
（２０１５年 １２月２５日 にて）
（作品データ）
■監督
リュ・スンワン
■出演
ソ・ドチョル ・・・ ファン・ジョンミン
チョ・テオ ・・・ ユ・アイン
（その他のキャスト）
オ・ダルス ユ・ヘジン チャン・ユンジュ オ・デファン キム・シフ
■コピー
“熱血”刑事が 権力の闇をぶっ飛ばす！
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