ＴＨＥ ＮＥＸＴ ＧＥＮＥＲＡＴＩＯＮ
パトレイバー 首都決戦
ディレクターズカット
これは、実写版パトレイバー「ＴＨＥ ＮＥＸＴ ＧＥＮＥＲＡＴＩＯＮ パトレイバー」シリーズの長編映画版に、２７分の未公開映像を追加したディレクターズカット版。
レインボーブリッジが爆破される事件が発生。警察は、偶然撮影されていた現場付近の映像から、これが特殊な軍用ヘリからのミサイル攻撃であることを突き止めた。
それは、数日前に陸上自衛隊から、パイロットごと行方不明になった最新鋭ヘリコプター「グレイゴースト」。機関砲とミサイルで武装した上に、熱工学迷彩で周囲に溶け込み消えてしまう“見えないヘリコプター”だ。
特車二課の後藤田は、公安部の高畑警部の強引な要請に押し切られるように事件に引き込まれて行く。そして浮かび上がってきたのは、１０数年前に起きたあのクーデター未遂事件だった……
映画版の世界は「機動警察パトレイバー２ Ｔｈｅ Ｍｏｖｉｅ」の後日談であり、そして「パトレイバー２」が描いた、柘植による“幻の戦争”の再現を柘植の組織の残党が企む、と言う設定。
オリジナル劇場版を観た時には、「パトレイバー２」のインパクトには及ばず、その縮小再生産されたかのような内容に物足りなさを覚えましたが、このディレクターズ・カット版、尺も伸びたせいもありますが、押井守の意図する所がはっきりとして、大分印象が変わりました。
（ただ、宣伝にあるような「別物」にはなっていません。言わば、監督によるより判り易い説明つき、と言う所でしょう）
もっとも、アクション映画としての見せ場はほとんど変わらず、見せ場のひとつであったカーシャの戦闘アクションも、「東京無国籍少女」の後では、いささかぬるく感じられてしまいましたが……
「パトレイバー２」の公開後、大災害により街があたかも戦火を浴びたように荒廃し、その中で自衛隊が行動する、と言う戦場のような様相が幾度も繰り返され、手軽になった動画撮影により、そうした映像を日常で観る機会も増えました。
だからこそ、柘植が仕組んだような、“幻の戦争”では今更インパクトを与える事は出来ないのです。
そうした状況と、予算など様々な制約を受ける映画製作の台所事情を重ね合わせ、その中でやれる事をやってのけた、それは確かに認める必要があると思いました。
そして、そんな状況を体現するキャラクターが灰原零。背景も動機も判然とせず、ただ破壊のみをバラ撒く、その存在は、映画の中で語られるように「必要な存在」であると共に、現代日本における「戦争」そのものをイメージしているかのよう。
それは確かに存在するのだけど、その正体は不明――戦後７０年を過ぎ、日本の「戦争」とは､最早、亡霊ですらなく、正体不明の不気味なものでしかないのかも知れません。
そして、現実に立ち戻れば、「戦後」をやり直そうとした柘植の主張と重なるような、「戦後レジームからの脱却」を首相が語り、平和憲法は政府によって骨抜きにされています。
そんな現実に向けて放たれた本作は、確かに考えさせられる内容を持つ映画でした。
勿論、映画なのですから、その語るべき内容を「絵」で見せて欲しい、と言う思いは本作でも抱きましたが……
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督・脚本
押井守
■出演
泉野明 ・・・ 真野恵里菜
塩原佑馬 ・・・ 福士誠治
シバシゲオ ・・・ 千葉繁
後藤田継次 ・・・ 筧利夫
カーシャ（エカテリーナ・クラテヴナ・カヌカエヴァ） ・・・ 太田莉菜
大田原勇 ・・・ 堀本能礼
山崎弘道 ・・・ 田尻茂一
御酒屋慎司 ・・・ しおつかこうへい
灰原零 ・・・ 森カンナ
（その他のキャスト）
藤木義勝 高島礼子 吉田鋼太郎 岡部いさく
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