バードピープル
これは、パスカル・フェラン監督８年ぶりの新作で、孤独な人間の“解放”を独特の視点で描いたドラマ。
物語の舞台となるのはパリの玄関口、シャルル・ドゴール空港と隣接するヒルトンホテル。
パリを訪れたアメリカ人ビジネスマンのゲイリーは、どうしようもない不安感に襲われ眠れぬ一夜を過ごす。納期の厳しい仕事、妻との冷え切った関係、今年のクリスマスはドバイでひとり過ごす事になりそうだ……一夜明けた朝、彼はある決断を下し、開放感を得るのだが……
そのホテルで部屋係として働くオドレーもまたやるせない想いを抱えていた。無人の部屋を清掃し、透明人間と化す毎日……大学も休学してしまい、彼氏とも別れた。今はただ遠くから人々の営みを見るだけが社会との係わりだった。だが、ある日、残業中に停電に見舞われた彼女に驚くべき事が起こる。彼女は何時の間にか一羽の雀になってしまったのだ……！
映画としての見所はやはり後半。雀となったオドレーがホテルの屋上から空へ飛び立つ所からです。最初は上手く飛べないのだけど、練習を重ね、やがて空高く舞い上がって、ホテルの窓から眺めている空港の上を飛び回ります。
映画シーンに合わせ見事に演技する雀に驚きますが、これは撮影用に卵から育てて人に馴らした雀を大量に用意し、シーンに合った場面を撮って編集でつなぎ合わせているのだとか。
また、ドローンを使った雀の視点の空撮映像も見事なもので、飛行場上空の空撮など、よくやったものと感心します――勿論、これもまた飛行機の飛行時間を避けて撮影した映像を合成しているのでしょうけれど。
地味な映画ですが、その凝った映像と撮影技術の高さには舌を巻きました。
また、オドレーと漫画家らしい日本人青年とのエピソードもいい。終盤、ホテルの屋上で撮影する彼の前にオドレーが降りて来る辺り、日本人オタクの妄想そのままの展開ですから。（だって、メイド服姿の少女が空から落ちて来たんですよ）
尚、オドレーを演じるのは「彼は秘密の女ともだち」のアナイス・ドゥムースティエで、実年齢よりかなり若い大学生役ですが、時として十代にさえ見える年齢不詳っぷりは相変わらず。やっぱり“フランスの宮崎あおい”だなぁ。
この映画が描くのは、抑圧、と言うか人を縛る様々な制約からの解放。
ふたつの物語は対照的で、ゲイリーの物語は、仕事も家庭も捨ててしまい、“心の解放”を得ると言うもの。しかし、それは彼が逃げだそうとしていた煩雑な手続きや痛みを新たに生む事になります。
一方のオドレーの物語は、人である事を捨て、翼を得て重力からも解放されますしかし、その代償に飢えや生命の危機に襲われ、人としての権利や安全をも失う事になります。
結局、抑圧に思える制約が人を人たらしめているのであり、解放されると言うことは、また別の束縛を生み、犠牲を強いられると言う事でもある――これは、解放に伴う“自由の責任”を描くものなのです。
ただ、そんなテーマは悪くないにしても、物語としては盛り上がりに欠けるもの。特に、ゲイリーを描く前半はいささか退屈に感じてしまいましたし、オチの切れ味も今ひとつに思えました。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督・脚本
パスカル・フェラン
■出演
ゲイリー・ニューマン ・・・ ジョシュ・チャールズ
オドレー・カミュゼ ・・・ アナイス・ドゥムースティエ
アキラ ・・・ タクリート・ウォンダラー
（その他のキャスト）
ロシュディ・ゼム カメリア・ジョルダナ アケラ・サリ アン・アズレイ ラダ・ミッチェル
マニュエル・ヴァラード イポリット・ジラルド ジェヌヴィエーヴ・アダムス ジェフリー・カンター
クラーク・ジョンソン カトリーヌ・フェラン マチュー・アマルリック フィリップ・デュクロ
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