ロマンス
これは、小田急電鉄の新宿−箱根間を走る特急列車「ロマンスカー」のアテンダントの女性と、中年の映画プロデューサーが箱根巡りをする人間ドラマ。
監督・脚本は、「百万円と苦虫女」、「ふがいない僕は空を見た」のタナダユキ。主演は元ＡＫＢ４８の大島優子。
北條鉢子はロマンスカーのアテンダント。ある日、鉢子の元に長く音信不通の母からの手紙が届く。鉢子が幼い頃に離婚し、その後、男出入りが激しくなった母を鉢子は嫌悪し、成人してからは遠ざけていた。
その日、列車の中で菓子を万引きした中年男を見つけた鉢子は、いつもなら穏便に済ませる所を、母からの手紙に苛々していたせいもあって、つい声を荒げてしまい、問題をこじらせてしまう。
駅の事務所に連れて行かれた男は商品代金を払って無罪放免。鉢子は母からの手紙を破り捨て、業務に戻ろうとするが、男が捨てた手紙を拾い上げて読んでいるのを見て憤慨する。だが、その男は突然変な事を言い出した。
「君のお母さんは死のうとしている。その前にこの箱根に来るつもりなんだ」
男は強引に鉢子を連れ出して……
これは、ふとしたきっかけで面識のなかった男と女が共に１日を過ごす、と言う一種のロードムービーで、そこに主人公の過去を回想シーンで重ねて行く、と言う構成。
映画はロマンスカーから御殿場・プレミアムアウトレット、大涌谷に箱根登山鉄道、ケーブルカーに芦ノ湖遊覧船、箱根ホテルに富士山と、箱根の観光名所巡りもしっかり入れられて、映画に協力した小田急電鉄と箱根観光協会への義理も果たした格好。
主人公の鉢子を演じる大島優子は、「紙の月」で見せた演技巧者っぷりを存分に発揮。“仕事はデキるけれど、言う事辛辣で、他人に厳しい”と言うＡＫＢでの大島優子そのままの、性格キツそうなキャラクターではありますが、鉢子を活き活きと演じています。
タナダユキ監督は、これまでも蒼井優や田畑智子などを脱がせていますが、この映画の大島優子は、ラブホテルにしけこむシーンこそあれど完脱ぎなしで、残念なようなほっとしたような……
旅の道連れの中年男・桜庭を演じた大倉孝二もいい味を出し、この２人の掛け合いは面白く、笑わされるシーンも多々あります。
こうした手堅い構成と出演者に恵まれながら、この映画、何となく物足りない出来映えなのです。
ロードムービーの定石として、旅の中で自分自身に向き合い「駄目な自分」を認めた。それはいいとしても、その後がどうなったのか、が映画としては必要でしょう。
まぁ、人間そう簡単に変わるものではなく、そんな所もタナダユキらしい、と言えばそうなのですが……鉢子と桜庭が、どのような「新しい一歩」を踏み出すのか、そこを観たい、と思ってしまうのです。
そうしたドラマを描かないのならば、大島優子のアイドル映画に徹するとか、箱根を美しく魅力的に描いて観光宣伝映画にするとか、やりようはもっとあった筈ですが、この映画、その辺りも徹し切れていません。特に、いかにもビデオ撮りされたと言う感じの、艶のなく彩度の乏しい映像は観光宣伝映画としては落第でしょう。
（これは箱根観光協会もがっかりしたのでは……？）
素材は決して悪くないだけに、ちょっと勿体ない、と思ってしまった映画でした。
（２０１５年 ８月３０日 横浜ブルク１３にて）
（作品データ）
■監督・脚本
タナダユキ
■出演
北条鉢子 ・・・ 大島優子
桜庭洋一 ・・・ 大倉孝二
（その他のキャスト）
野嵜好美 窪田正孝 西牟田恵 杉作J太郎
■コピー
サヨナラだけが人生だ。サヨナラだけがロマンスだ。
■Ｌｉｎｋ
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