サンバ
これは、「最強のふたり」の監督＆主演コンビによる映画。
「最強のふたり」のイメージを押し出し、コメディ色のあるハートウォーミングドラマのような宣伝をされていますが、その中身はやや辛口の社会派映画です。
フランスに来て１０年目のセネガル移民の青年サンバ。
叔父が働くレストランでの仕事ぶりが認められ、調理師の資格を取って料理人にステップアップを考えていたサンバは、ビザ更新のミスで、移民収容施設に送られ、国外退去を命じられてしまう。
そんなサンバの頼りは、移民支援団体のボランティアのアリスだった。だが、メンタルを病んでいたアリスも、明るく前向きなサンバの姿に励まされていたのだ。
アリスの同僚のマニュは「移民とは距離を置いて」と釘を刺すのだが、２人の距離は徐々に接近して行き……
この映画は、フランスの移民問題を、外国人の視点から描いた、と言う点で興味深いもの。
低賃金で社会の底辺を支える仕事に就く外国人労働者たち。そんな外国人ら抜きでは就労体制が成立しないにも関わらず、彼らを国民扱いせず、使えるだけ使って、使い捨てにするように本国に送り返してしまう政府と、そんな彼らを支援するのは、スキルも充分でない民間のボランティアしかいない、と言う現実。
そうした問題を取り上げた視点は秀逸ですし、そんな彼らのひとりであるサンバと、一流企業のビジネスエリートから転落したキャリアウーマンのアリスを引き合わせる、と言うアイデアもよいと思います。
ただ、対照的なふたりが絶妙の反応を生んだ「最強のふたり」に対し、サンバとアリスのふたりからは。“物語”を生み出す反応を引き出す事が出来なかったように感じられました。
確かに、サンバを演じるオマール・シーは、抜群の魅力ある笑顔と、理屈抜きの包容力を感じさせますし、アリスを演じるシャルロット・ゲンズブールも、不安定な心中と、どうしようもなくサンバに惹かれて行く想いを繊細に演じているのですが……
確かに、身体の障害と言うパーソナルな問題を解決すればよかった「最強のふたり」に対し、この映画で解決しなければならないのは、「移民の受け入れ」と言う社会問題であり、そこに個人がどうこう出来る訳がなく、無力感に苛まれるだけ、と言うのは判りますが……やはり、映画なのですから、そこに何らかの決着が欲しい所です。例えば、恋愛を描くのであれば、それがふたりの現実と未来を変える、としてもよかったのではないでしょうか？（サンバに家族が出来れば、永住権だって取得し易くなるでしょうし）
また、サンバが、移民収容施設で仲良くなった友人の恋人を寝取り、結果として友人の結婚話を破談させたばかりか友人を事故死させてしまい、あろうことか友人のビザを頂戴して居住権を得る、と言う展開は如何なものか、と。
確かに、そうでもしなきゃ“幸せ”になれないんだ、と言う皮肉になっているのは判るにしても、これはさすがに納得出来るものではありませんでした。
（２０１５年 １月 ２日 ＴＯＨＯシネマズ川崎にて）
（作品データ）
■監督
エリック・トレダノ／オリヴィエ・ナカシュ
■出演
サンバ ・・・ オマール・シー
アリス ・・・ シャルロット・ゲンズブール
（その他のキャスト）
タハール・ラヒム イジア・イジェラン ユンガル・ファール イサカ・サワドゴ エレーヌ・ヴァンサン
クリスティアンヌ・ミレー ジャクリーヌ・ジェアンヌフ リヤ・ケベデ クロティルド・モレ
アデル・バンシェリフ ジャン=ミシェル・コレイア ニコラス・ボーケア
■コピー
ビザなし、金なし、住所なし。持っているのは“最強”の笑顔だけ。彼の名は――
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