Ｏｎｌｙ Ｌｏｖｅｒｓ Ｌｅｆｔ Ａｌｉｖｅ
オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ
これは、スタイリッシュで芸術性の高い作風で知られる映像作家、ジム・ジャームッシュの新作。
「リミッツ・オブ・コントロール」以来３年ぶりの長編映画となる本作は、吸血鬼ものです。
デトロイトで、ミュージシャンとして活動するアダム。モロッコのタンジールの街で、本に埋もれてひっそりと暮らすイヴ。
彼らは、数世紀もの間、愛し合っている吸血鬼のカップルだった。
この所、気力を失っているアダムを見かねたイヴはデトロイトを訪れる。
再会を喜ぶ２人だが、そこにイヴの妹であるエヴァがやって来て・・・
これはいかにもジム・ジャームッシュらしい映画です。
独特のオフ・ビートな展開に、美しい映像、それに拘りの音楽。
紀元前から連綿と続く古い街並みのタンジール、栄華を極めながら数十年で荒廃し、既に廃墟となりつつあるデトロイトを対比させる辺りの舞台設定も巧妙なら、ティルダ・スウィントンとトム・ヒドルストンと言う、独特の美しさを持つ俳優を起用している辺りもいい。
ただ、映画にドラマティックな部分を望む人には退屈な映画でしょうし、これは観る人を確実に選ぶ映画であるのは間違いのない所だと思います。
そして、映画に盛り込まれた膨大な情報と、それらに対する言及・・・
確かに、数世紀を生きて、老いる事のない吸血鬼と言うのは膨大な知識と経験を得ている知的エリートだった訳で、それをひけらかすのは当然だろう、と言う立場を映画はとります。
観客には、そうした情報を受け止め、処理することが求められる訳で、こうした部分もこの映画の敷居を高くしている部分だと思います。
映画の中で、「ゾンビ」と言うのは現代人類のこと。
情報の電子化と情報ツールの登場により、吸血鬼の、膨大な経験と知識を有する、と言うアドバンテージは失われつつある、と言う事を示しているのでしょう。
情報の電子化により、音楽も、言葉も記録として残る。そればかりか、本人が死ねば失われてしまう筈の、声や、その人の姿さえも記録され、再び甦る・・・そうして、人は死んでも、その生み出したものは死ななくなった。
それを「ゾンビ」と言い、これまで、そうした過去の出来事を生きた記憶として後生に伝える役割をして来た吸血鬼の存在意義がなくなろうとしている、と言う事を意味しているように感じました。
そして、映画は最後に追い詰められたふたりの開き直りともとれる行為を描きます。
己が己たるアイデンティティ、それは時代が変わり、世の中が変わろうとも決して変わることはありません。
「自分は、自分だ」と、牙を剥く――それは正に、そのようにしか生きられない、と言う監督のメッセージなのかも知れません。
（月日 にて）
（作品データ）
■監督
ジム・ジャームッシュ
■出演
アダム ・・・ トム・ヒドルストン
イヴ ・・・ ティルダ・スウィントン
エヴァ ・・・ ミア・ワシコウスカ
（その他のキャスト）
ジョン・ハート アントン・イェルチン ジェフリー・ライト
スリマヌ・ダジ カーター・ローガン ウェイン・ブリンストン
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