これは、身体障碍者のセックスをテーマにした、ちょっと変わったヒューマンドラマです。
　１９９９年に亡くなった詩人でジャーナリストのマーク・オブライエンが１９９０年に雑誌に掲載した手記を元にした、実話を元にした映画となっています。

　マーク・オブライエンは３８歳。６歳の時に感染したポリオの後遺症で、首から下が動かないという重い障碍を持っている。
　そんなマークが、新しく雇った介護士は、若くて美人のアマンダ。
　介護の仕事以上に献身的な彼女にの優しさに心惹かれたマークは「愛してる」と告白したのだが、彼女はそのまま仕事を辞めてしまった。
　落ち込むマークに、雑誌社から障碍者のセックスについての記事を依頼された。マークは取材を進めるうちに、自分も障碍者向けのセックス・セラピーを受けてみようと決心。こうして出会ったのが、代理人セックスを行うシェリルだった・・・

　映画は、マーク・オブライエンの手記を元にしているのですが、ブレンダン神父と言う映画オリジナルの人物を登場させたのが面白い。
　手記の内容をマークが独白するのではなく、神父に相談（告解？）すると言う事で物語に広がりと、面白さが出ました。
　何しろ、教会の神父さんにセックスの相談をしてしまうのですから・・・その場違い感も面白いし、「セックスしてみたい」と言うマークに、「婚前のセックスは姦淫になる」と一応、窘めるものの、「僕が結婚出来ると思いますか？」と返されて、目を白黒させながら「・・・神もお許しになるだろう」と言うやりとりの面白さ。
　この脚色は当たりだったように思います。

　また、代理人セックスの相手、シェリルは、演じているヘレン・ハントが正に体当たりの好演。アカデミー賞女優にして、この脱ぎっぷりなのですから大したものです。
　（で、この映画でまたアカデミー賞にノミネートされました）
　勿論、代理人セックスとして、感情を入り込ませずにこれまでやって来たシェリルが、マークに心動かされてしまうまでの繊細な心の動きを演じ切ったのもさすがです。　

　童貞男がセックスに憧れる心境、そしてセックスに至るまでを丁寧に描き、その上で、セックスはあくまでもコミュニケーションのひとつでしかなく、愛情を生むのは、如何にして「真心」を相手に届けるか・・・そんな繊細な描写も上手い。
　その想いを言葉になり、あらためて届けられたラストシーンには思わず涙しました。　

　障碍者のセックスを描いた映画には、日本映画の「暗闇から手をのばせ」があります。
　どちらも実話がベースでありますが、「障碍者相手の性産業」と言うドキュメンタリー的な面白さのあった「暗闇から手をのばせ」に対し、こちらは「代理人セックス」（ただし、セラピーの一種であって、決して売春ではない）と言うものが今ひとつ判らない、と言う問題はあるものの、ドラマは面白い。少なからず奇異なテーマを取り上げ、それを決して見世物にはせず、優しいヒューマンドラマに仕上げた、良心的でよい映画だと思います。

　（２０１４年　１月　４日　新宿・シネマカリテにて）

（作品データ）

　■監督

ベン・リューイン

　■出演

　マーク・オブライエン　・・・　ジョン・ホークス

　シェリル　・・・　ヘレン・ハント

　アマンダ　・・・　アニカ・マークス

　ブレンダン神父　・・・　ウィリアム・Ｈ・メイシー

（その他のキャスト）
　ムーン・ブラッドグッド

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