暗闇から
手をのばせ
これは、身体障碍者専門の風俗嬢となった女性を描く映画です。
身体障碍者専門デリバリーヘルス「ハニーリップ」。
「お客さんが障碍者なら、動けないから怖くない」と言う理由で、「ハニーリップ」で働く事を決めた沙織は、客の重度障碍者へのサービスを通じて、それまで知らなかった世界を垣間見ることになる・・・
この映画、実在する障碍者専門デリヘル「ハニーリップ」を取り上げたドキュメンタリー映画として企画され、それが頓挫して今回の映画に仕立て直されたそうです。
「日本の１８歳以上の在宅身体障碍者は３４８万人」と言うような台詞に入れられた情報はドキュメンタリーとして集められたものが土台になっているのでしょうし、客の障碍者を車椅子からベッドに移動させる可搬式クレーンなど、実際に使われている機材も興味深く、ドキュメンタリー映画的な「未知の情報」に触れる面白さがあるのは、そうした生まれのせいでしょう。
更に、実際に四肢に重度障碍のある芸人・ホーキング青山が登場するに及び、ドキュメンタリーに限りなく接近します。
実際に障碍者のセックスについての本も執筆しているホーキング青山の語る言葉には、健常者と障碍者の違いをも飛び越え、「生きる」意味を考えさせるものがあります。
「よく障碍者を『可哀想』と言う人がいるけれど、本当にそうなのかな。
おれは、両親の愛によってここまで成長して、あなたを呼べる程度のゆとりある生活をしてる。
あなたは見知らぬ男の尻の穴までなめる仕事をして、それをやめろ、と言う人もいないんだろ。どっちが幸せなのかな？」
（そんな事を語った直後に「で、本番、ヤらしてくんない？」と、落とす辺りが笑えるのですか）
何れにしても、あけすけで綺麗事にしてない分、物事の本質がはっきりする部分はあり、「障碍」と言うことを考えさせる点では、殊更に感動ものにしようとした乙武洋匡の「だいじょうぶ３組」を上回る、と思いました。
沙織を演じたのは、グラビアアイドルの小泉麻耶。
現役アイドルだけに、フルヌードは見せていませんが、どうせレイティングのかかる内容だけに体当たりの演技を見せて欲しかった感あり。
（トップグラビアアイドルの壇蜜だって「私の奴隷になりなさい」であそこまでやったのですから）
ドキュメンタリー的要素の多かった前半に対し、後半は、ドラマが描かれます。
沙織を追うストーカー男のエピソードは余計とも思いましたが、これも、「人の歪さ」を描く要素のひとつ、と見るべきでしょうか。
バイク事故で下半身不随となった青年とのエピソードは、一転して叙情的とも言える描写となります。
この物語が、映画らしさを見せるこの場面は、静かながらも見応えあり。
終盤、青年が生きる気力を得て（その動機には苦笑しますが）働き始める、と言う描写に、「障碍」と言う問題から逃げない姿勢を見せ、日陰者扱いの性風俗産業にあって、これは「必要悪」ではなく、それを必要とする人にとってのかけがえのないものになっている、と言う事を示したのは、いっそ立派と言うべきでしょうか。
意外にも爽やかに締めたラストで、観た後の感じは悪くないもの。
「それでも、生きていく」と言う結論が、ストンと腑に落ちました。
（２０１３年 ４月３日 渋谷・ユーロスペースにて）
（作品データ）
■監督
戸田幸宏
■出演
沙織 ・・・ 小泉麻耶
津田 ・・・ 津田寛治
中嶋 ・・・ ホーキング青山
（その他のキャスト）
森山晶之 管勇毅 松浦佐知子 モロ師岡
■コピー
かつて、祝福されて生まれて来たはずの君と。
■Ｌｉｎｋ
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