夢と狂気の王国
これは、ドキュメンタリー映画「エンディングノート」で注目された砂田麻美監督が、スタジオジブリを取材するドキュメンタリー映画。
映画の撮影は２０１２年秋に始まり、２０１３年の「風立ちぬ」公開後、９月に行われた宮崎駿監督の引退記者会見の舞台裏とその後までに渡って行われています。
この映画の狙いは面白く、多くの観客が興味を抱くであろう、「風立ちぬ」製作中のスタジオ・ジブリにおけるアニメ製作の実態などではなく、「スタジオ・ジブリ」そのものを対象としているのです。
しかも、本作の砂田麻美監督は、なかなか面白いドキュメンタリーの撮り方をします。
それは、人によっては「踏み込み不足」と評価されるかもしれませんが、貪欲に対象に迫るのではなく、自然に、そこにカメラと共にある、と言う感がいい。
この辺り、是枝裕和監督の元で助監督を務めていた経験でしょうか？是枝監督は、子供の自然な表情をドキュメンタリータッチで捉えるのに長けた人でしたが、砂田監督も、その手腕はなかなかなのではないでしょうか？
巨匠、フレデリック・ワイズマンを比較するのもおこがましくはありますが、ワイズマンのように空気のような存在にはなり切れていないにせよ、対象の自然な姿を映し、記録して行く姿勢は面白いと思いました。
まぁ、これは砂田麻美監督が、まだ若い女性である、と言う事も大きいと思いますが・・・宮崎駿は、あたかもスタジオジブリにいついてしまったネコをあやすのと同様に、監督に接しているように思えますし、砂田監督のカメラも、ネコのように気ままにスタジオ内を闊歩し、ぱたぱたと人の後を追いかけます。
映像的には興味深いシーンも多く、「風立ちぬ」の主演声優に庵野秀明監督を起用するいきさつや、そのオーディション光景は面白く見られましたし、過去映像で、何かの打ち上げの宴会シーンで、宮崎駿が歌い踊るシーンなども収められています。
大凡１年に及ぶ撮影期間の中で、移り変わる季節を収めた映像は美しく、自然に映し取られたスタジオ風景には臨場感たっぷり。
状況説明も最小限に抑えられているために、ドキュメンタリー映画に望まれる「情報」と言う点では物足りない部分はあるものの、「スタジオジブリ」と言う“世界”の、その空気感を感じられる、希有な作品だと思います。
（２０１３年 １１月２８日 ＴＯＨＯシネマズららぽーと横浜にて）
（作品データ）
■監督
砂田麻美
■出演
ナレーション ・・・ 砂田麻美
宮崎駿 高畑勲 鈴木敏夫 庵野秀明 宮崎吾朗 奥田誠治 久石譲
■コピー
ジブリにしのび込んだマミちゃんの冒険。
■Ｌｉｎｋ
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