サカサマのパテマ
これは、逆さまの方向に重力が作用する世界を描く、ＳＦアニメ。
先日公開された「アップサイドダウン 〜重力の恋人」と類似の設定ですが、これは「イヴの時間」で注目された吉浦康裕監督のオリジナルストーリー。
８０年生まれのまだ若い吉浦康裕監督ですが、これはなかなかの力作です。
廃坑のような地下都市の中、ひっそりと暮らしている人間たち。
その族長の娘であるパテマは、こっそり忍び込んだ“禁断の場所”で、天井を歩く“コウモリ人間”に遭遇。巨大な穴に転落して、穴の底にあるもうひとつの世界に入り込んでしまう。
そこは上下が真っ逆さまの、奇妙な世界だった。
アイガ国と言う、統制社会の世界で、パテマはエイジという少年に出会い、彼と共に地底の国へを帰ろうとするのだが・・・
重力の方向が逆、と言う並行世界の人間が出会う事で、隠されていた世界の姿が明らかになると言う物語。
この設定を活かし、主人公たちふたりは、それぞれ“落ちて”行く方向が違う中で、世界を上下に移動して行きます。この上下移動のダイナミズムと、爽快感を覚える頭上の青空が、重力が逆の人間にとってみたら恐怖そのものの奈落の底に見える、と言う“サカサマの恐怖感”がこの映画の見所。
特に上下移動のダイナミズムは、宮崎アニメでも多用された定番の設定で、ここを前面に押し出せば、この映画、スリル満点の冒険ファンタジーになったことでしょう。
本作に類似する「アップサイドダウン 〜重力の恋人」では、この特異な世界観の説明が手際よく、いささか力業ではあるものの、冒頭で一気に説明してからは、主人公たちの恋愛を中軸にするドラマに集中させてくれたのですが・・・この映画、その世界構造を解き明かすこと自体をドラマにしてしまったせいもあって、世界の全貌が見えず、観客をいちいち、ここはどうなっているのか？と悩ませてしまう感じがあります。
さらに、物語の規模の割に登場人物が多く、物語の視点がバラバラに見えてしまうのも、いたずらに事態を複雑にしているだけではないでしょうか？
また、アイガ国の独裁者・イザムラがパテマに固執する理由が描かれず、ただのロリコンの変質者に見えてしまう（それはそれで宮崎アニメの影響とも言えなくもないが・・・）のも痛い設定に思えます。
ややこしい世界設定の説明に戸惑う部分はあれど、ＴＶドラマ派生でも、原作付きでもない、オリジナルで、これだけのものを出来ると言うのは大したものだし、それを生み出す日本のアニメーション映画には、大きな可能性がある、と言うこと。
巨星・宮崎駿引退の後に、このような若い才能が現れる、と言うのには期待が高まります。
（月日 にて）
（作品データ）
■監督
吉浦康裕
■出演
パテマ ・・・ 藤井ゆきよ
エイジ ・・・ 岡本信彦
イザムラ ・・・ 土師孝也
（その他のキャスト）
大畑伸太郎 ふくまつ進紗 加藤将之 安元洋貴 内田真礼
■コピー
手を離したら、彼女は空に落ちていく。
■Ｌｉｎｋ
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