これは真逆の方向に重力が働いているふたつの世界、と言う奇想天外な舞台設定で描くファンタジー仕立てのラブ・ストーリー。
　監督は、アルゼンチン出身の注目の若手、フアン・ソラナス。

　真逆の方向に重力が働くふたつの世界――支配層の“上の世界”は“下の世界”から燃料を搾取して裕福な暮らしを享楽していた。
　ふたつの世界は交流を禁じられており、近づく場所も制限されていたが、父母を亡くした“下の世界”の少年アダムは、立ち入り禁止の高山の頂きで、“上の世界”の少女エデンと出会って恋に落ちる。
　だが、その恋は上の警察によって引き裂かれ、エデンは“上に”墜落して大けがを負ってしまう。
　それから１０年・・・ふとしたことからエデンが生きていると知ったアダムは、エデンに会いたい一心で、ふたつの世界を繋ぐ、トランスワールド社に入社し、“上の世界”への侵入を試みて・・・

　この映画の特色は、何と言ってもその奇想天外が世界設定。
　重力が逆さまの方向に働く、その世界がどのようなものになっているのか・・・ちょっと考えただけでも幾つも矛盾点が出て来て瓦解してしまう、その世界を圧倒的な美しさで見せ、観客を力ずくで納得させてしまう、これぞ映画の力でしょう。
　とにかく、ファンタジーが超自然・幻想的な「見たことのないものを描く」ものだとすれば、これは正にファンタジー。
　ファンタジーと言えば、中世を舞台に「剣と魔法と竜」の出て来る世界、と言う思い込みを吹き飛ばす見事なもので、息を呑む程に美しくもありえないシーンが幾つもあります。

　ただし、余りにも無理のある世界設定故に、これをＳＦとして、世界と社会に踏み込んで描くのは難しく、物語は、この美しくも奇妙な世界観を背景とした禁断のラブストーリーに終始。
　言わば“重力に引き裂かれたロミオとジュリエット”と言う趣。
　それでも、真逆の重力世界に侵入する為、“上の世界”の物質を身につけて、その“重さ”で着地するなど、あの手この手の工夫が面白いし、その“上の世界”での活動を制限するために、逆の世界の物質が触れると過熱し、燃え出す、と言う設定もなかなか。
　（これはこれで、アダムとエデンが触れ合ったら燃え上がらないのか、とか、“上の世界”の食物をアダムが食べたら胃の中で燃え出さないか、と矛盾が幾らでも出て来てしまうのですが）

　アイデア１本勝負、と言う感じの映画ではありますが、このビジュアルは圧倒的。
　また、久しぶりに可愛らしいキルスティン・ダンストを観られたのも収穫でしょうか。
　これまでの設定をブチ壊し兼ねないラストのビジュアルにはちょっとツッコミを入れたくもなりましたが、そこも含めてあまり世界観については考えず、写し出される奇想天外な光景を楽しむのがいい映画だと思います。
　

　（月日　にて）

（作品データ）

　■監督

フアン・ソラナス　

　■出演

　アダム・カーク　・・・　ジム・スタージェス
　エデン・ムーア　・・・　キルスティン・ダンスト

（その他のキャスト）
　ティモシー・スポール　　ジェイン・ハイトメイヤー　　ブル・マンクマ　　ジェイムズ・キドニー　　ケイト・トロッター　　ヴラスタ・ヴラナ

　■コピー

真逆のふたり、引かれ合う。　

　■Ｌｉｎｋ

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