フィギュアなあなた
これは、漫画家でもある石井隆監督が、２０年ほど前に書き下ろした「無口なあなた」を原作にしたセクシャルファンタジー。
現在、「芸能界Ｎｏ．１のエロい体」を持つされるグラビアアイドル、佐々木心音をヒロイン（？）にした映画です。主演は、柄本佑。
演技経験の殆ど無い佐々木心音ですが、ヌードを披露・・・と言うか、映画の中では殆ど下着さえ着けていないと言う、文字通りの“体当たり”で頑張っている事が話題になりました。
また、竹中直人、壇蜜などが脇役で出演する豪華にも思えるキャストですが・・・これは、監督が同時期に製作していた「甘い蜜」出演者のカメオ出演でしょう。
こうした有名所が脇を固める事で、映画に箔をつけるのが狙いだと思います。
出版社の編集部員の内山は、失敗企画の詰め腹を切らされて左遷され、左遷された挙げ句に会社を辞めてしまう。
彼女にも愛想を尽かされ、やけ酒呷ってケンカし、逆襲されて命からがら逃げ込んだ廃墟のようなビルで、人間そっくりの等身大フィギュアを見つけ、家に持ち帰る事にする。
やがて、内山はそのフィギュアに心音と言う名前をつけ、奇妙な同棲生活が始まるのだが・・・
石井隆監督の特徴と言えば、暴力とエロス描写に雨、そしてヒロインの「名美」がお約束ですが、この映画に「名美」は登場しません。
佐々木心音には、役名すら与えられず、芸名の「心音」を仮の名前として、あたかも映画のプロップのひとつであるかのように登場します。
つまり、石井監督は、佐々木心音を女優としては扱わず、映画の中の「心音」も「女」ではなく「人形」として、そこに「ある」のです。
しかし、女優ではなく、女でもなく、ただ「女体」としてそこにある佐々木心音の肉体の見事さは、正に圧巻。決して華奢ではなく、脚などは筋肉質で逞しい、と言える、固く引き締まった肉体に美乳。
そんな彼女をいじくり倒し、犯し、それに飽き足らずに踊らせ、戦わせ、歌わせ、最後には宙を舞わせる。
石井監督は、映画を言い訳に佐々木心音をおもちゃにしているかのよう。
なるほど、そうやって見せられるこの体は見応えがあり、この映画を、そんな佐々木心音を「見る」映画とみても間違いではないでしょう。
演技経験のないグラビアアイドルを主演にする、と言う制約を、こうした手法でクリアして描く物語は、石井監督の得意とする男と女の物語ではなく、内山と言うダメ男の破滅を描くもの。
内山は、勤め先で上司や同僚に責任をなすりつけられても反論することも出来ず、ずるずると会社を辞め、だからと言って積極的に仕事を探すかと言えばそうでもなく、あれこれ言い訳をしては、ギャンブルに逃避するような男です。
酔ってケンカしても女相手に逆襲されてしまう体たらく（まぁ、確かに相手が悪いのですが）、挙げ句に「心音」を初めて抱く時の想定状況が何とレイプ、と言うのだからどうしようもない。
（こんな男をきっちり演じた柄本佑の役作りもなかなか。これは「苦役列車」の森山未來に匹敵するでしょう）
自分に甘くて、だらしなくて、女々しくて、しかも自己中心的・・・言い訳と思い込みからストーカー犯罪に走るような男で、そんな男の前に天使など舞い降りるものか。
その“天使”の見せる慈母のような優しさは、男が自分に与える“甘え”に他ならず、言ってしまえば男の“妄想”だろう、と先が読めてしまいます。
この映画には、石井監督の描いて来た“女”はおらず、ただ、自己中心的な男の妄想と一人芝居しかないのです。
脳天気とも言える狂乱のクライマックスの後、男を待ち受けるのは孤独な死・・・虚無感の漂うその終幕は、内山のような現代の男たちに突きつけた監督の刃のように思えました。
（月日 にて）
（作品データ）
■監督
石井隆
■出演
内山健太郎 ・・・ 柄本佑
（心音） ・・・ 佐々木心音
（その他のキャスト）
竹中直人 風間ルミ 桜木梨奈 間宮夕貴
壇蜜 伊藤洋三郎
■コピー
ワタシが
あなたを
満たしてあげる。
■Ｌｉｎｋ
［戻る］