これは、ミシェル・ゴンドリー監督の新作。
　ＮＹ・ブロンクスを走る路線バスで、舞台となるのは、ほぼバスの車内に限定。登場人物も、ＮＹ在住の高校生たちで、有名俳優の出演もないと言う、低予算のインディーズ映画です。

　高校での１年最後の日、明日からは夏休みと言う事もあって、いつも以上にハイテンションになった高校生たちが下校のために路線バスに乗り込んで来る。
　バスには、一般客も乗っているのだけど、大挙して乗り込んだ高校生たちによって、まるで貸し切り状態のようになってしまう。
　だが、バスが停留所に停まり、高校生たちが少しずつ下車していく度に、騒がしかった車内は少しずつ落ち着きを取り戻して行く・・・

　映画に出演する高校生たちは、いずれもブロンクス在住の高校生だそうですが・・・アメリカのティーンエイジャーと言うのが外観が大人びていて、到底、高校生には思えません。
　まぁ、ただしやってることは日本の高校生と変わらず、彼らの振るまいから「ああ、子供なんだな」と思えるのですが・・・

　この映画の仕掛けはなかなか面白いと思いました。
　人間は数が集まる程、そこで交わされる会話の内容は下劣になり、集団としての行動は乱暴になっていくけれど、それは決して、集団を構成する個人の特性ではない、と言うこと。
　象徴的なシーンは、高校生の中のワルガキグループで、バス車内では後部座席の乗客を押しのけて占有、一般客をからかってバカ笑いしていたのに、そのリーダー格がバスを下りてひとりになった途端、車内でからかいの対象だった老婦人の逆襲にあってなすすべもなく逃げ回ると言うもの。
　乱暴に振る舞い、強がって見せるのは、仲間内での自分の立場を確立させると共に、仲間のカラーを明確にするためのもの――それは、傷つきやすい自分自身を守る、言わば“武器”なのです。

　バスから高校生たちが減って行くにつれ、高校生たちは、尖った“武器”を捨てて、素顔を見せて行きます。
　他者への嘲笑とウワサ話だった会話は、徐々に範囲を狭めて深刻なものになり、やがて自分と人生を語り始める・・・
　ここで辛辣なのは、漸く自分を見せた少年が、それまで、自分の“武器”にしっぺ返しを食うこと。
　“武器”は自分を守るものだけではなく、他人を傷つけるものでもあった事を思い知らされるのです。

　映画は最後に、少年と少女が自分自身をありのままに見せ、お互いを慈しむような描写で幕を閉じます。
　でも、これは彼らだけの物語ではありません。
　人間なら誰でも、そして勿論自分自身も、人が社会の中で生きて行く以上、持たざるを得ない、“仲間と自分（Ｗｅ　ａｎｄ　Ｉ）”を見せる・・・これには多くの人が共感するのではないでしょうか？
　小品ながら見応えのある映画でした。
　　

　（２０１３年　４月３０日　シアター・イメージフォーラムにて）

（作品データ）

　■監督

ミシェル・ゴンドリー

　■出演

　マイケル・ブロディー　　テレサ・リン　　レイディ＝チェン・カラスコ　　レイモンド・デルガド
　ジョナサン・オルティス　　ジョナサン・ウォーレル　　アレックス・バリオス　　ナオミ・マーフィー
　

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