ヴァンパイア
これは、岩井俊二が「花とアリス」以来となる、８年ぶりの新作映画。
タイトル通り、「ヴァンパイア（吸血鬼）」映画で、この「吸血鬼」と言う存在自体が日本の風土に似合わないと考えたのでしょうか、全編カナダで撮影され、主要キャストも外国人と言う、異色の日本映画になっています。
高校教師のサイモンは、人には決して話せない、ある秘密を抱えていた。
彼は“吸血鬼”なのだ。インターネットの自殺志願者の集うサイトで一緒に死んでくれる相手を探している女性にコンタクトし、自殺を手伝うのを装って血を抜き取るのがサイモンの流儀。
サイモンの“獲物”の女性は、睡眠薬を与えられ、血を抜き取られて死んでいく。
サイモンは決して手荒なことは好まない。「一緒に死ぬ」というのは嘘だが、当人だって望んだ死だったはず。
だが、「血を吸う」という欲望を満たしたサイモンは、決まって自己嫌悪に陥るのだった・・・
これは今までにないタイプの吸血鬼映画。
この映画に登場するサイモンは、「血を吸う」事に取り憑かれているけれど、それ以外には特異な部分のない、普通の人間なのです。
ただ、吸血鬼映画の基本は押さえています。吸血鬼の「吸血」と言うのは、性行為のメタファーなのですが、この映画でもそれが描写の中心。
その意味で言うと、女性に触れずに血を吸うサイモンは、さしずめ、“オナニー狂いの童貞”と言うところ。
それが悪い事とは判っていて、した直後には自己嫌悪に陥る辺り、正にそのまま、と言えるでしょう。
印象的なのは、吸血鬼マニアの男性が、実際に女性を襲って犯し、血を啜る場面を間近に見たサイモンが嘔吐してしまうシーン。
実際の性行為を初めて見た純な少年がショックを受けるように、サイモンはその行為のおぞましさを嫌悪するのです。
その後、サイモンは運命的な女性に出会って、初めて、その肌に口をつけて血を吸います。
これが何を意味するかは明確で、これは確かに美しいシーンでした。
その後のサイモンの心境の変化は、正に「恋」そのもの。
そして、その恋は勿論、悲恋に終わらなければならない。
確かに、映像は美しく、その物語も繊細でピュアであるものの・・・まるで、中学生の恋愛感のようなもので、「カマトトぶるなよ」と言う苦言のひとつもつけたくなる感じでした。
（月日 にて）
（作品データ）
■監督・脚本
岩井俊二
■出演
サイモン ・・・ ケヴィン・ゼガーズ
（その他のキャスト）
ケイシャ・キャッスル・ヒューズ 蒼井優 アデレイド・クレメンス アマンダ・プラマー
クリスティン・クルック レイチェル・リー・クック ドレヴァー・モーガン
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惹かれあう孤独な魂たち この世の果ての恋物語
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