ゴッド・ブレス・アメリカ
これは、バカどもを手当たり次第に抹殺する中年男と女子高生の“殺人行脚”を描く異色のバイオレンス映画。
「バカども」として、アメリカのセレブや人気ＴＶ番組が実名で登場する、と言うエゲツなさと、そのイカレ具合から、本年度のベスト・カルト映画と評される問題作です。
バツイチ中年男フランクは世の中の全てに不満を抱いていた。
隣人や会社同僚のバカさ加減に腹立ち、妄想の中で彼らを射殺して留飲を下げる毎日。
しかし、ある日、ささいな理由で会社を首になり、更に、かかりつけの医師から偏頭痛の原因が悪性の脳腫瘍であると告げられたフランクは、絶望の余り自殺を思い立つ。
だが、習慣のようにつけていたＴＶのリアリティ番組に登場したワガママ娘の様子を見ているうちにフランクの中で何かが弾けた。
フランクは隣家のクルマを盗むと、ＴＶで見た少女を探し出し、射殺。
その一部始終を、女子高生のロキシーが目撃していて・・・
この映画、「キック・アス」や「スーパー！」などに通じる部分があって、目新しさ、と言う点でどうかな？と思っていたのですが、これはなかなかのインパクト。
マフィアやギャングと言った、誰もが認める「社会の敵」と戦うのではなく、日常にはびこるバカども――他人の気持ちを顧みず、弱者を笑いものにし、あるいは差別する者たち――ある意味で「アメリカ社会」の病巣を相手にする戦い。
もとより勝ち目はありません。
ただ、悪性の脳腫瘍で限られた余命のフランクは、己の手の届く範囲だけでも社会をよくしようとするのです。
そして、ロキシーは、そんなフランクに共感し、共に戦うことになる・・・と、まぁ、その狙いはよく判るのですが、それが上手く描かれているか、と言うとそうではないのがちと惜しい。
余り深刻にやるのもどうか、と思ったのでしょうか、妙にコミカル、時に童話的に語られ、限られた寿命の中で足掻く、ひりひりするような焦燥感が描かれることはありません。
ふたりの“殺人行脚”を、「俺たちに明日はない」のボニー＆クライドになぞらえて描こうとする（実際、ボニ−＆クライド風のファッションを決めるシーンがある）のであれば、そうしたひりひりするような焦り、追い詰められた心境を描いて欲しかったなぁ、と思います。
ただ、内容自体、痛快な部分を持っているのは確か。
弱者を公開リンチして笑いものにするようなバラエティ番組の低俗さ、映画館や駐車場などの公共スペースでのマナーの悪い利用者・・・こうした事に苛立ちを覚える人は少なくないはずで、そこにこの映画がウケる理由があると思います。
（まぁ、実名まで挙げられた方にしてみれば堪ったものではないと思いますが・・・）
あと、ロキシー役のタラ・リン・バーは可愛らしくも健気で・・・「キック・アス」でクロエ・グレース・モレッツがブレイクしたように、この映画で、タラ・リン・バーの人気が高まるように思いました。
（余談ですが、フランクが最初に殺す娘の名がクロエ。そして「スーパー！」のヒロイン、エレン・ペイジが主演の映画「ＪＵＮＯ」を執拗にコキ下ろす辺り・・・意識しているのかな？）
クライマックスの展開は、なかなか皮肉なもの。
脳腫瘍が誤診だった事を知らされたフランクは、逆に「死に場所」を作らなくてはいけなくなる・・・そこにロキシーも助けに駆けつけるのですが、「俺たちに明日はない」を下敷きにしている以上、その先にふたりを待ち受ける運命はひとつしかありません。
確かに、怒りをエネルギーにし、人生の最期を輝かせたふたりの姿は決して暗いものではありませんでしたが・・・
（月日 小田原コロナシネマワールドにて）
（作品データ）
■監督
ボブキャット・ゴールドウェイト
■出演
フランク ・・・ ジョエル・マーレイ
ロキシー ・・・ タラ・リン・バー
（その他のキャスト）
マッケンジー・ブルーク・スミス メリンダ・ペイジ・ハミルトン リッチ・マクドナルド
■コピー
世の中バカだらけ、みんなまとめてブチ殺せ！
■Ｌｉｎｋ
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