| ＳＵＰＥＲ スーパー！ |
この映画の主人公、フランクは町のダイナーで働く冴えない中年男。体格はいいのに気が弱く、不器用で自信もない彼にとって、人生で輝かしい事は、美しい妻サラと結婚したことだった。
だが、彼女はある日突然、姿を消してしまう。町で幅を利かせるドラッグディーラーの元締めジョックが、サラに横恋慕。元々麻薬依存症だったサラを薬漬けにして奪ったのだ。
そんな絶望に沈むフランクに神のお告げが与えられた。
「正義のために戦え！」と。
天啓を受けたフランクは、手作りのコスチュームに身を包み、正義の味方「クリムゾンボルト」として、悪を打ち砕くべく立ち上がるのだった・・・
・・・と、ここまでの粗筋を紹介すると、中年版の「キック・アス」か？と誰しもが思うでしょうけど、この「スーパー！」、２００３年に脚本が書き下ろされ、２００５年頃より映画化の話は進んでいた、と言いますから「キック・アス」をパクった訳ではなさそうです。
この映画の元になったのは、恐らくは「バットマン」。
バットマンことブルース・ウェインに超能力はありませんが、大富豪なので金にモノ言わせて秘密兵器を開発してスーパーヒーローになります。
が、金のないフランクは手作り衣装にスパナを持ってヒーローを目指す。
その悪党を懲らしめる行為が犯罪であるとして警察に追いかけられる辺りも含め、これは設定を変えたもうひとつの「バットマン」と言えるかもしれません。
無邪気なヒーローオタクが主人公だった「キック・アス」に比べ、中年男を主役にしたせいか、或いはそれが狙いなのか、この映画、「キック・アス」より一段と深い、と言うか辛辣なテーマを盛り込んでいます。
「キック・アス」は「ヒーローとはエゴイスティックな存在」と描きましたが、この映画では、「神」の存在を持ち出すと共に、より辛辣なものをテーマに盛り込んで来ました。
それは、「ヒーローとはエゴイスティックなもの、でも、その行動には“動機”が必要」と言うこと。
つまり、動機となる「××のため」と言う理由です。
ヒーローとはエゴイスティックなもの、でも、それを隠蔽する為に理由が必要なのです。「正義のため」、「神のため」、「妻を悪党から救い出すため」・・・
フランクは、妻を取り返す、と言う個人的な理由でヒーローになります。
そして、気弱で優しく、暴力と無縁だったフランクは、「神の意志」である「正義のため」、人にスパナを振り下ろす。
神の名の元に人間が繰り返して来た悪行を示すようなその描写に、キリスト教文化圏であるアメリカの映画批評家たちが「ＮＧ」を出した、と言うのにも頷ける、と言うものです。
そして、その描写は、エレン・ペイジ演じるアメコミ店員のリビーが相棒になってから更にヒートアップ。
「キック・アス」のデイヴのようなヒーローオタクとみせかけて、実は彼女、とんでもないサイコ野郎だった、と・・・そして、そんな彼女に焚きつけられ、フランクはヒーローから処刑人と化し、ジョック邸に殴り込む、と言うのがクライマックス。
ハリウッド大作にも出演、アカデミー賞にもノミネートされたエレン・ペイジに、あんなことさせちゃう展開もそうですが、この血みどろクライマックスにはもう唖然とするばかり。
その後のとってつけたようなハッピーエンドのエンディングが妙に浮いているように感じられました。
これは、間違いなくカルト映画になる１本でしょう。
（８月１４日 横浜ニューテアトルにて）
（作品データ）
■監督
ジェームズ・ガン
■出演
フランク ・・・ レイン・ウィルソン
サラ ・・・ リヴ・タイラー
リビー ・・・ エレン・ペイジ
ジョック ・・・ ケビン・ベーコン
（その他のキャスト）
ネイサン・フィリオン
■コピー
シャラップ・クライム！
■Ｌｉｎｋ
［戻る］