ＳＨＡＭＥ
シェイム
これは、往年の大スターと同じ名を持つイギリス人監督、スティーブ・マックイーン監督の２作目の映画。
主演は、「Ｘ−ＭＥＮ：ファースト・ジェネレーション」のマイケル・ファスベンダー。マイケル・ファスベンダーは、スティーブ・マックイーン監督のデビュー作、そして本作、更に次回作でも主演が決定している、とのことで、どうやらいいコンビのようです。
ニューヨークで働く独身のエリートサラリーマン、ブランドンは、物静かで優雅な態度とは裏腹に、重度のセックス依存症だった。
ハンサムな彼は抜群のセックスアピールを武器に、魅力的な女姓と見れば所構わず行きずりの関係を持ち、セックスをする。職場のパソコンにもアダルト画像や動画が多数ダウンロードされ、気持ちが高ぶれば会社のトイレでもオナニー。仕事を終えて自宅に戻れば、アダルトサイトにアクセス。ＴＶ電話での疑似セックスに興じる事もあるし、コールガールを部屋に呼ぶ事も。
彼にとってのセックスは、アル中患者の酒同様、なくてはならないものになっていて、半ば強迫的に射精をしなければならない、そんな日常を送っていた。
そんな彼の元へ、恋人に捨てられた妹シシーが突然、転がり込んできたことで何かが狂い始める・・・
この映画、「セックス依存症」が重要な要素として描かれるだけに、性描写に溢れていますが、主役のブランドンと言う男を、生活感が希薄で奇妙な清潔感を感じさせる人物として描いた事で、映画の印象はむしろドライなもの。裸やセックスが描かれても決して扇情的ではなく、意外なまでに淡泊な印象です。
映画タイトルの「ＳＨＡＭＥ」とは「恥」と言う意味ですが、日本語の「恥ずかしい」と言う感覚とは異なり、キリスト教文化圏では神に対し恥ずべき事、つまり反道徳的な行為を示すようです。
聖書では、セックスと言うのは結婚した男女が子供を作るために行うものとされ、ブランドンのセックスは、正に「反道徳的」なもの。
しかし、タイトルに込められた意味はそれだけではなく、ブランドンとシシーの兄妹に、過去、彼らのトラウマになるような「恥ずべきこと」があったことを示しているようです。ただ、この映画、それを明確には描きません。
その点で、この映画、最近の判りやすい映画と異なり、テーマとなる内容を敢えて描かず、それを観客に手探りで推論させるスタイルをとっています。
いわば、「永遠のミステリー」であり「謎」を残す内容で、映画の作りとしては古めかしいものとなっています。
しかし、この映画が２１世紀の映画らしいのは、その終盤。
トラウマから逃れようとする兄妹は、衝突の挙げ句、２人とも、それぞれ破滅的な行為に走ります。
かつての映画であれば、そして破局を迎える所ですが、この映画はそうはならない。
シシーは生還し、ブランドンは、以前と同じようにセックスに没頭する毎日に戻っていく・・・いや、今回のような「事件」でさえ、シシーの腕の傷で、過去に幾度も繰り返されたものであることさえ暗示するのです。
かつて、映画は道徳的なもので、反道徳的な行為には、必ずや報いとしての破滅が用意されていました。
それは、２０世紀末に来るかもしれない破局、また、冷戦時代であれば、そこにある危機としての破局、それらを無意識のうちにも描いていたのでしょう。
「よくないこと」には必ず報いが来る、それは「人類全体」に対しても、と言う世界観。
しかし、２１世紀、混沌とした「終わりない日常」を生きる現代人としては、この映画が描く、トラウマを抱え、悪いと判ってはいつつも行う「恥ずべきこと」を続け、それでも、報いがある訳でもなく、苦しみながら毎日を生きて行く・・・それがリアルなのかも知れません。
（２０１２年３月１０日 横浜ブルク１３にて）
（作品データ）
■監督
スティーブ・マックイーン
■出演
ブランドン ・・・ マイケル・ファスベンダー
シシー ・・・ キャリー・マリガン
（その他のキャスト）
ジェームズ・バッジ・テール ニコール・バハーリー
■コピー
愛なら、毎晩ティッシュにくるんで捨てている。
■Ｌｉｎｋ
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