ＡＶの歴史
短いようで長い、その歴史について
【ＡＶの歴史】
アダルトビデオの歴史は、１９８０年代、ビデオテープレコーダーの普及と同時に始まった。
従来のポルノ映画（またはピンク映画）は、映画用フィルムで撮影されており、これを個人で視聴する事は困難であり、また、個人でも視聴可能な８mmや１６mmのフィルムに焼き直したもの（いわゆる、ブルーフィルム）は低画質であった。
１９８１年、日本ビデオ映像が、初めてプロ用のベータカムで撮影を行ったビデオ作品をリリース。
この「ビニ本の女・秘奥覗き」と「ＯＬワレメ白書・熟した秘園」は、そのタイトルからも想像がつくように、当時のピンク映画の内容を、ビデオに直撮りしたものであった。
だが、その画質の良さ（当時としては）により、爆発的ヒットを記録。これが、アダルトビデオ――ＡＶ誕生である。（ただし、当時の名称は「ポルノビデオ」であった）
翌１９８２年には、代々木忠監督による「ドキュメント・ザ・オナニー」が発売。女性が一人だけ登場しオナニーの真似をするだけの内容であったが、画質の良さの衝撃は相当なもので、ヒットに次ぐヒットを連発した。
この成功は当然、追従者を生んだ。撮影方法を倣い、後発メーカーが次々誕生したのである。
その代表格が、ビニ本メーカーであった宇宙企画、それにＶＩＰであった。
映画会社に関連があった日本ビデオ映像と異なり、これらのメーカーはピンク映画女優起用のツテがなく、やむなくビニ本モデルや、スカウトした素人を起用する事になる。
演技もろくに出来ない彼女たちを見せる為、ドキュメンタリータッチで見せる、と言う手法が生まれたが、これが逆に生々しい迫力を生み、人気となった。
当時、宇宙企画のビデオ作品は「動くビニ本」と称されたが、正にそれが内容を示していた。
もっとも、当時の家庭用ビデオデッキの普及率は僅か１％。
当然、ごく一部でしか話題にされない状況ではあったが、ＡＶは、現在に至る道筋を定めつつあった。
１９８２年、ＶＩＰは、ビニ本時代に得意としていたハードな作品を連発。出演する女性のタレント性を押し出す宇宙企画に対し、ＶＩＰは、何でもありのプレイ内容と言う、ハード路線で対抗し、現在の、単体女優物と企画物と言うＡＶの流れが形作って行く。
この年、オナニーに続き、作品上で、演技ではないセックスを本当に見せる――これを「本番」と呼んだ――作品、伊藤ルミ主演の「ファナック」が日本ビデオ出版より発売。やがて、「本番」を見せる事は当然となって行く。
１９８３年。
日本ビデオ協会が、レンタルシステムを発表。
これにより、１万円以上する高価なソフトを購入しなくとも視聴出来る体制が出来、ビデオデッキの普及に勢いがつく。その中で、あるエポックメイキングな出来事が起きる。
前年、ヌード写真集で人気となっていた八神康子が、「隣のお姉さん」でビデオ出演、大人気となったのだ。
これまで、ビデオで人気の女優と言えば、愛染恭子や美保純など、ピンク映画で実績のある女優たちばかりであったが、ここで、ピンク映画出演経験のない、生え抜きのビデオ女優が通用する、と言う実績が生まれた。
これが、アダルトビデオメーカーに勢いをつけた事は想像に難くない。
生え抜きのビデオ女優で人気を得る事が出来るならば、ピンク映画女優を数多く起用する映画会社系のビデオメーカーではない、独立系のメーカーが成功する事が可能だと見られたのだ。
そうなれば、あとは如何に人気女優を生み出すか。
八神康子は、親しみ易いルックスとは言えたが、残念ながらその美貌は多くの女優に見劣りした。
だが、そんな彼女でもビデオで裸になる事で人気が得られるならば、彼女以上のタレント性のある女優を起用すれば・・・となるのは当然の結論だ。
１９８４年、宇宙企画の名物「ミス本番」シリーズに、田所裕美子が登場する。
「ミス本番・裕美子１９歳」――とても裸を見せるとは思えない、アルドルタレントのような初々しい彼女がビデオでセックスまでして見せる、これは正に衝撃的なものであった。これにより、宇宙企画は現在に至る美少女ＡＶ路線を確立、ＡＶ界で不動の地位を築くに至った。そして、同時に、少なくない男性に、ビデオデッキ購入を決意させた、と言われる。
また、本作はＡＶにおける美少女本番路線を確立しただけではなく、ストーリー性を排除し、性行為そのものを作品の軸に据え、性行為の場面のつなぎとして、イメージシーンやモノローグ、インタビューなどを使うといった演出を初めて行った作品であり、現在の一般的なAVのフォーマットを作り出した作品としても高く評価されている。
１９８５年には風営法が施行された影響からか、イブなど、風俗嬢のＡＶ女優への転身が目立った。
また、女子大生のＡＶ出演も相次いだ。ミス駒沢の森田水絵、慶大生の井上あんり、早大の杉田かおりなどである。こうして、ＡＶ女優の幅は広がり、認知度も高まって行った。
この年の家庭用ビデオ普及率は４０％を越え、レンタルビデオ店も全国で１万軒を越えた。そして、１９８６年、秋元ともみデビュー。
これまでも、早見瞳が、ＣＤリリースするなど、ＡＶ女優をアイドルタレントとして売り出す試みはされ、それなりの成功を収めていたが、この秋元ともみのデビューにより、ブームは本格化した。
宇宙企画は、早川愛美、麻生澪ら２人を加えた３人を別格扱いとし、アイドルとして売り出して行く事になる。
そうして、ＡＶ女優が、カメラの前でセックスをしてみせる素人ではなく、職業として続けられるタレント業である、と言う認識がされ始めた中で、それを決定付ける女優がデビューする。
小林ひとみである。
「本番は絶対にやらない」と宣言、素人がその演技力のなさを生のセックスを見せる事でカバーして来たＡＶにおいて、セックスを「演じる」、正に女優であった。
本番が売りのＡＶで、疑似セックスが何処まで通用するか、と言う懸念はあったが、本気の喧嘩よりも、作られた戦いであるプロレスの方が見ていて楽しいのと同様、コントロールされた、演技のセックスの方が見応えのある場合だってある。
小林ひとみは、それを証明した。
彼女の出演ビデオは、軒並み１万本を売る大ヒットを重ね、彼女の元には出演のオファーが殺到。出演料もうなぎ登りとなった。
初の本番を披露した女優、伊藤ルミのギャラが７万円だったのに対し、小林ひとみのギャラは２００万円を越える、とウワサされた。
そして、小林ひとみにより、日本で「ＡＶ女優」と言う存在が認知される事になったのだ。
秋元ともみなど、“宇宙少女”たちや、小林ひとみの活躍により、「芸能デビューの足がかりになれば」と、ＡＶ出演を決意する女性が目立ったのもこの頃である。
（結論からすると、それはほとんど幻想にしか過ぎなかったのだが）
地味ながらも演技力には定評のあった前原祐子、ポスト・小林ひとみの大本命だった桂木麻也子ら、ＡＶでセックスを演じる事の出来る女優が次々にデビューした。
更に、斉藤唯、東清美、葉山みどりと言った、ＴＶタレント顔負けの女優が次々にＡＶデビュー、ＡＶアイドル全盛期を迎える事になる。
そして、ＡＶ女優の質が劇的に向上した反面、アイドルタレント並みの少女が脱いでみせるだけでは満足できない、とする風潮が出始めたのもこの頃である。
秋元ともみらが、事務所問題で引退を強いられた１９８８年、豊丸がデビュー。
女性の方から貪欲に性を求める「淫乱」が一気にブームとなる。
しかし、後の「痴女」ものと異なり、複数プレイや異物挿入など、過激路線に走る過熱ぶりに当の豊丸ですらついて行けず、ブームは長続きしなかった。
１９８９年、豊丸が引退、それと入れ替わりになるよう登場したのが松坂季実子だった。
バスト１１０．７cm（実際にはそこまでなかったらしい）、その巨大な乳を前面に押し出した彼女の登場により、「巨乳」ブームが起きた。
松坂季実子に続き、いとうしいな、庄司みゆき、加山なつ子らと言った、巨乳を売り物にした女優が続々と登場、人気となった。
ただし、この淫乱・巨乳と言う“キワモノ”がもてはやされた時期においても、ＡＶの本流はやはり美少女だった。
そうして、ＡＶアイドルとしてもてはやされ、ＴＶ出演やＣＤをリリースしたとしても、芸能デビューは遠く、ＡＶを足がかりに芸能人になる、と言うのは幻想ではないか、と言う冷静さを、バブルで踊らされる中で持つＡＶ女優たちがいた。
その代表格が、小沢奈美。丸顔でキュートな美少女でありながら、飲み屋のカウンターで、煙草の煙と共に、
「どうせ、あたしらＡＶ女優は芸能人になんかなれっこないんだよ」
と、冷めた視線で吐き出し、その分、ＡＶに積極的に取り組んだのだ。
また、ルックスがよく、演技でカバー出来れば疑似セックスでもかまわない、と言う風潮をひっくり返した、「美少女本番路線」も、この頃に出始めている。バブル時代、ＡＶも発展の極みにあった。
その時代を象徴する女優が現れる。
樹まり子。
デビュー当時、女子大生だったと言うプロフィール、男好きのする美貌に豊満な肉体、巨乳、更に淫乱、そして、当然のように本番を見せ・・・ＡＶの様々なブームを一身に体現したのが彼女だった。
彼女は、“ＡＶバブル”で盛り上がる中、一気に頂点に駆け上がった。
そして、バブル崩壊。
家庭で、比較的安価に楽しめるＡＶは、バブル崩壊とは縁遠いはずであったが、“ＡＶバブル”期ならではの、無駄に豪華な作品内容や、高騰した制作費が経営を圧迫、業界の風雲児、村西とおる率いるダイヤモンド映像も倒産に追い込まれている。
この頃から、単体女優の専属化が進む。
人気女優を高額のギャラで引っ張ると言う事が出来なくなった制作会社が、有望な女優と専属契約を結び、陳腐化を避ける為に製作本数を制限（月に１〜２本）するようになったのだ。
また、この頃から、「パブリシティＮＧ」（一般雑誌やＴＶなどのメディアに顔出し不可）と言う傾向が強くなる。
あの星野ひかるが親にＡＶ出演がバレて引退、同様に白石ひとみも一時引退を強いられるなど、人気女優を失う事を恐れた事務所と制作会社が、両親や知人にＡＶ活動がバレないようにする苦心の策であったが、これは両刃の剣であった。
一般誌や新聞など、広くメディアで紹介出来なくなった事により、ＡＶ作品の知名度は低下、大ヒットが生まれなくなってしまった。
こうして、ＡＶは、この後、暫く低迷期に入る事になる。パブリシティＮＧで広くアピールの場を失い、バブル崩壊のあおりでレンタルビデオ店の多くが閉店に追い込まれ、ＡＶ制作会社の台所事情は更に苦しくなっていく。
その中で、各メ−カーとも企画作品に目を向けた。
とにかく、単体女優と企画女優の出演料の差は圧倒的であり、はるかに安い制作費（ＡＶ制作費の大半は女優の出演料であるとされる）で制作出来る企画作品は苦しい台所事情で新作を求められる中では必然であった。
実際、“ＡＶバブル”崩壊後も、リリースされる作品数はむしろ増えていた。
バブル後の不況下において、ＡＶは、安価に楽しめる娯楽であったのだ。
１９９４年、「ビデオ安売王」が、セルビデオ販売チェーン店の全国展開を始め、安価なセルビデオ市場を席巻。
レンタル系のメーカーが徐々に淘汰され、ＡＶの主流はセルに移行していく。
そうした中で、インディーズメーカーと言われるビデオ倫理協会に属しない制作メーカーが台頭。元々、ビデ倫に属さない故に、レンタルビデオ店に作品を展開出来ず、セルビデオを展開して来たインディーズメーカーは、レンタル中心の大手メーカーに対し、アドバンテージを有していたのだ。
だが、このブームも長くは続かない。
「ビデオ安売王」が１９９６年に倒産、企画ビデオの売れ行きも鈍化。
企画ビデオのジャンルに多くが参入、市場に対し、供給数が飽和したのであった。
この１９９６年、家庭用ＤＶＤプレイヤーが発売され、新メディア・ＤＶＤへの期待は高まる。
プレイヤー発売と同時にＡＶソフトのリリースが開始されたのだが、当初、制作費がそれまでの５倍もかかる、と言う事で、追従する足取りは重く、当初、大きな変化はないものと考えられた。
翌１９９７年には、ＣＳ放送のアダルトチャンネルがスタート。新しい媒体として期待が高まった。
しかし、状況を変えたのはＤＶＤであった。
従来のＶＨＳビデオテープに較べ、コンパクトなディスクは、家庭内で保管するのにも場所を取らず、セルビデオ中心になったＡＶにとって追い風だった。
ＡＶは、その性質上、そのコレクションを大っぴらに出来るものではない。映画ソフトであれば、居間のテレビの脇にでも並べておけるが、ＡＶソフトはそうはいかない。
そうした傾向から、場所を取らないＤＶＤディスクでのソフト供給は追い風になった。
更に、長時間の記録が出来、頭出しも容易、と言うのも、ストーリー性があり、連続視聴するのが常識の映画やドラマと異なり、自慰目的の為、クライマックスシーンをピックアップして見たいと言う傾向の強いＡＶには大きな利点だった。
そうしたニーズもあってか、勢いがつくとＤＶＤの普及速度は速かった。２０００年にはソニー・プレイステーション２で視聴が可能となり、２００２年の「Ｗｉｎｄｏｓ Ｘｐ」発売からは、家庭用ＰＣにもＤＶＤドライブが標準化し、ＤＶＤを視聴可能な環境は急速に整っていく。
ＤＶＤは、ＶＨＳビデオテープに較べ、ディスクに長時間記録出来ると言う事もあって、ソフトの低価格化と共に、長時間化も進んだ。
ＶＨＳ時代、４５〜６０分、１万円程度だったＡＶソフトは、２〜４時間で２〜５０００円と言う価格になったのだ。
こうなってしまうと、レンタルも難しい。
こうした追い風を受け、２０００年頃から“第２次ＡＶバブル”とでも言うべき、ブームが起きる。
ＤＶＤに移行した事で、セルビデオを数多く購入する層が増え、更に、過去の作品の再販も進み、かつてのファンも取り込んでのブームとなったのだ。
勿論、その中心はセルビデオであり、企画作品も数多くがリリースされた。
その中で、奇妙な現象が起き始める。
女優ではなく、作品の内容で売る企画ビデオ、その出演女優が何時の間にか人気を集め、単体女優並みのネームバリューを持つようになったのだ。
企画単体女優、後に“キカタン”と呼ばれる女優の出現である。
この企画単体の代表と言えるのが、朝河蘭である。
２００１年にデビューした彼女は、翌年２００２年の１年間で、ＡＶ史上空前の２１２本のＡＶに出演。そして、翌２００３年にはあっさりとそれを越える３０４本に出演したのだ。
１年１０ヶ月で５１６本のＡＶに出演した朝河蘭は、正に空前絶後のＡＶ女優であり、彼女以降、こうしたペースでＡＶ出演をした女優はいない。
この朝河蘭に、長瀬愛・堤さやか・笠木忍・桃井望という「キカタン四天王」を加えた人気キカタンにより、キカタンと言う名称とジャンルが確立。彼女たちは、この２年で膨大な作品をリリース、第２次ＡＶバブルを支える立役者となった。
また、この時期、忘れてはいけないのは及川奈央である。
デビュー当初はパッとしなかった彼女だが、インディーズに出演するようになって人気上昇、ＡＶ界を代表する女優となっていく。２００２年、「Ｗｉｎｄｏｓ Ｘｐ」発売以降、広く普及したブロードバンドは、２００４年には全世帯数の３割に達し、映像配信も特別な事ではなくなって来た。
ＡＶについては、本格普及には至ってはいないものの、ここで登場したのが、無修正作品である。
日本では、刑法第１７５条（わいせつ物頒布等）によって、わいせつ物とされる性器を直接描写した映像作品は公開できないことになっており、いわゆるハードコアポルノ作品と呼ばれる性交を直接描写した作品は名目上流通出来ない。（その為、こうした作品を、日本では「裏ビデオ」と呼ぶ）
だが、ハードコアポルノが合法な国（例えばアメリカ）にサーバーを置き、そこに作品がある限り、わいせつ物頒布等には抵触しない。
そうした作品は、今まで通り「裏ビデオ」と呼ばれる事も多いが、最近では「ジャポルノ（Ｊａｐｏｒｎ）」とも呼ばれるようになって来た。
映像配信によって入手が容易となり、また、これまでの裏ビデオと異なり、とりあえず、視聴までは違法性がない事から、市場は拡大している。
こうした無修正作品により、かつて「過激」とされた性器の直接描写も一般化してしまった中、本来、過激さが売りのインディーズメーカーの中には極端な描写に走る所も少なくない。
２００３年、レイプものビデオ撮影の際、ＡＶ女優に対して、過度な暴力を振るって怪我をさせてしまい、製作者が実刑判決を受けたのなどはそのひとつだが、これ以降も、こうした暴力事件は後を絶たない。
また、こうしたインディーズ系の作品の撮影により、女優を死に至らしめた例もある。
インディーズメーカーは、ビデ倫に縛られず、作品内容は自主規制によるが、こうした事例を見ると、今後、なんらかの規制が必要となるかもしれない。
２０１６年に発覚した「出演強要問題」は業界に衝撃を与えた。
最近ではＡＶ女優志望者が増え、職業として認められつつあり、前向きに仕事として取り組む女性が目立っていた。
そんな中で、何故、「出演強要」が起きたのか？
それは、ＡＶ女優に求められるレベルがこれまでになく上がっているからだ。確かに、ＡＶ女優事務所には、女優志望の女性が続々訪れている。だが、その中で、ＡＶ製作会社と専属契約を結び単体契約が取れる、と言う女性がいるか、と言うと、それは難しい。
それは何故か、と言うと、応募１０００人中、ひとりいるかいないかと言う高いレベルを要求されるからだ。
そうした専属契約を取れる女性を一定数確保するには応募を待つと言う消極策ではなく、積極的に発掘するしかない。求められるのは美貌は勿論、清楚さと新鮮さだから、そうした色に染まってない、無垢な女性を、ある意味騙して契約してデビューさせてしまう事になる。
最近は事務所も巧妙で、地方から大学進学のため、東京に出て来たような、純朴な女性を狙い、「芸能デビューさせる」と言ってレッスンを積ませ、２年ほど経って成人した所を狙ってＡＶ出演を説得する。
本人も、それまでレッスンとか世話になってるから断りきれないのを狙うんだ。勿論、純朴であればあるほど、その説得は功を奏するし、地方出身で自宅通いじゃないから、親にも相談出来ない。
彼女らは了解はしても納得はしてないから、凄いストレスがかかって、メンタルを病む事も少なくない。黙らせる為にもギャラは相当にいいから、その金でストレスを発散する事を覚え、金遣いが荒くなると言う悪い癖がつく。
それで大学卒業、同時にＡＶ引退しても普通の会社務めが出来ず、「人生狂わされた」と訴え出るのが多発している、と……
こうした状況を変えるには、無垢な女性を騙すようなスカウト活動を止め、「一生ものの仕事に出来ます」と言うライフプランが立てられるようにした上で、納得ずくでデビューして貰い、長く活動させるしかない。
世間知らずの女の子を抱え込み、消耗品扱いにして放り出すような真似は出来なくなるんだ。
そして、もうひとつの問題は「人材派遣法違反」だ。これは、デビュー直前、我に返ってＡＶ出演をドタキャンした女優に対し事務所が違約金を請求したのだが、裁判でＡＶ撮影が「不適切な業務」と判断され、不適切な業務に派遣された労働者が、それを拒否する権利が認められてしまったのだ。
これが通るとなると、ＡＶ女優事務所は業務が出来ない。合法的にやろうとするなら、ＡＶ女優を「個人事業主」とし自己の意思で仕事を請け負い、事務所はそのマネジメントを委託される、と言う形にするしかない。これにより、ＡＶ女優の権限は拡大される事になる。
これらの問題を解決するには、Ｓ級の単体女優デビューに必須の「スカウト〜半ば騙し、半ば強制して出演承諾」と言うプロセスを廃し、女優の納得する仕事しかさせられない、と言う事になる。
これが通ると、現在のように単体契約の新人が月に２０人もデビューする、と言う現状は崩壊する。
そして、この世界で生きて行く事を覚悟したベテランが、限られた仕事のみをすると言う、現在の市場要望とかけ離れた状況となり、ＡＶの衰退が加速する。そうしてジリ貧になって消滅するか、今の状況を維持して、ある日、国と政府の強攻策で潰されるか……進むも地獄、留まるも地獄の状況だ。
だが、ＡＶの消滅は決して望ましい事ではない。
もし、規制強化して非合法化すると、恐らくは状況はもっと悪くなる。なにしろ、現在でも製作会社・ＡＶ事務所は裏稼業と縁の切れないグレーな業界だ。非合法化になるなら、そもそも法令遵守する必要もない訳で、付加価値を高める意味でも、違法で過激な行為に走るのは確実だ。
未成年者の出演や、リアルな強姦、暴行を記録して販売する業者が絶対に出て来る。人権問題を起こし、国際的にも非難が集中する、最悪の事態を招くだろう。
セーフティネットとして、ＡＶ制作者を何とかリーガルな地位に留める努力が必要とされる。
現在、東京五輪に向けて、総務省・警察庁は社会のクリーン化を進めている。
その中で、日本は諸外国から遅れていると見られている女性差別や性搾取の問題に対処すべく、ＡＶや成人向けコミックなど書籍の規制強化を推進している。
ただし、成人向けコミックについては、業界も「表現の自由」を訴え、議員を巻き込んでロビイ活動を展開。確かに、映画／ドラマ／小説などで犯罪やいかがわしい行為が描かれるのはよくある事で、ここを問題視されては堪らない。実際、“被害者”も存在しない訳で、これは「表現の自由」と言う理屈が立ち、生き残りの目途をつけている。
だが、ＡＶはさすがに難しい。
現在、元ＡＶ女優の川奈まり子がＮＧＯ「表現者ネットワーク（ＡＶＡＮ）」を立ち上げて、ロビイ活動を行っているが、支援を公表している“族議員”はゼロの状態だ。
事実上、行き詰まってるのが現状だが・・・これを何とかしないと、この数年でＡＶは消滅、危険でアングラ化したポルノが蔓延るような最悪の事態にも成りかねないのだが・・・さすがに、これは国に頼れない。業界の自助努力に期待するしかないが・・・さて、どこまで期待出来るのだろうか。
１９８１年に始まったアダルトビデオは、そのメディアと、ＶＨＳビデオテープから、ＤＶＤ、そしてデータ配信へ変え、その制作数も今や月に１２００本以上の新作がリリースされる盛況となっている。
エロを原動力に、こうして発展して来たアダルトビデオが、これからどうなるか・・・それは誰にも判らない。
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