これは、吉田怜雄の同題小説を映画化したもの。
　ハワイの日系人が多く住む町、ホノカアを舞台に、そこに暮らす人々をスローペースで描く映画です。

　恋人にフラれた大学生のレオは、かつて恋人と共に月にかかる虹を求めて訪れたハワイ北部の町、ホノカアを再訪する。
　とにかく、違った景色の中で暮らしたい、と思うレオは、ホノカアの映画館に住み込みで働く事になった。
　そして、レオは、映画館で売っている菓子を作っている、映画館向かいに住む老女、ビーと知り合い、毎日、食事を作って貰う事になる・・・

　この映画は、不思議な雰囲気を持つ映画です。
　主人公のモノローグを多用、何か起きそうで起きない展開、そして、独特のスローなテンポ。
　これが、見ているうちに段々、気持ちよくなって来るのです。
　もっとも、物語を進める必要上、時折、状況が急転するのですけど、それは仕方ないのかな、と思います。

　あと、この映画、キャストがムダと思えるほど豪華。
　倍賞千恵子に、松坂慶子と言う二枚看板。深津絵里や、蒼井優をちょい役で使ってしまうのですから・・・

　ホノカアの町は、取り残された町。
　取り残されて野生化したサトウキビの甘い香りに包まれた町は、正に、時間からも世界からも取り残されているよう。
　そこは、本来、老人の町なのです。
　そこへ、若者、レオがやって来た事で生じる様々なドラマを通じて、映画は、ありふれた人と人との触れ合いを描いて行きます。
　伝わらない気持ち、届かない思い・・・身近にいるからこそ、口にしないと判らない事もあるし、言えない事もある。
　その象徴と言えるのが、ビーの片想いです。
　ビーを演じた倍賞千恵子も、この歳で少女のような純な片想いを演じる羽目になるとは思わなかったでしょうけど、そこはさすがの名女優。
　まるで、初めて恋する少女のような、初々しいとさえ言える演技を見せます。
　そう、これは優れた恋愛映画でもあるのです。

　レオが伝えたかった言葉。
　「ごちそうさま」
　これには涙出そうになりました。
　ほんと、ごちそうさま。
　これは、心の栄養になる映画です。

　（３月１５日　１０９シネマズＭＭにて）

（作品データ）

　■監督

真田敦

　■出演

　レオ　・・・　岡田将生
　ビー　・・・　倍賞千恵子

（その他のキャスト）
　長谷川潤　　喜味こいし　　正司照枝　　松坂慶子　　蒼井優
　深津絵里　　吉田玲雄　　チャズ・マン　　トム・スズキ
　披岸喜美子　　松尾諭　　吉田克幸

　■コピー

どうして僕たちは何かを失って、大人になるんだろう。

　■Ｌｉｎｋ

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