その土曜日、
　７時５８分　

ＢＥＦＯＲＥ
　ＴＨＥ　
ＤＥＶＩＬ
　ＫＮＯＷＳ
ＹＯＵ’ＲＥ
ＤＥＡＤ

　気弱な男ハンクは、不動産業で成功した兄アンディから、奇想天外な儲け話を持ちかけられる。
　それは両親の経営する宝石店を襲撃し、金と宝石を奪おうというもの。
　金は懐に入れ、宝石は闇ブローカーに売り、利益は山分けと言う計画だ。両親は盗難保険に入っているから、実質的な被害はない。
　アンディは、会社の金の使い込みが発覚しそうになって窮地に立たされており、ハンクは離婚した娘の養育費支払いにも事欠く状況。ハンクは、結局この計画に乗ることにするのだが・・・

　これは追い込まれた人間が抜け出せない泥沼にハマって行く様を描く悲劇です。
　名匠、シドニー・ルメット監督はこれを「メロドラマ」と呼んでいます。
　メロドラマは偶然に委ねられた物語の事で、男と女が偶然出会い、運命にもてあそばれながらすれ違い続けるのを描く事がメロドラマの本質ではありません。　
　この映画は、ギリシア悲劇の「オイディプス王」にも似た重厚なドラマであって、運命により、あらかじめ破滅を決定づけられた人間が、そうと知らぬまま定められた運命に弄ばれて、破滅の底へ落ちていく姿を描いています。
　その構成をよく示しているのが、映画は、冒頭で描かれる強盗の失敗です。
　ここから映画は何度も何度も過去に戻って、強盗が成功すると信じて進む兄弟たちを描いていきます。映画の中で、兄弟の計画は破綻することを運命付けられていると言うのに。

　その運命を引き寄せたのは、彼ら自身の弱さと、それ故に他人を受け入れる事が出来ず、心の繋がりを持っていない事。
　ハンクは、そうして妻に離縁され、アンディも、表向きはともかく、妻とは上手く行かず薬物に逃避しています。
　２人に共通するのは、弱い自分を守る為にお金が欲しい、と言う事。
　その為に、両親さえ利用した、と言う事がこの悲劇を呼び込んでしまうのです。　　　

　この重厚でスリリングなドラマを紡ぎ出す監督の力量も凄いのですが、俳優も素晴らしい。
　フィリップ・シーモア・ホフマンの後半の弾けっぷり、イーサン・ホーク演じるハンクの腰抜けっぷりも見事。アルバート・フィニーはさすが、名優の存在感です。
　また、マリサ・トメイはこうした小規模作品で光る女優ですね。
　（それにしても、マリサ・トメイはフィリップ・シーモア・ホフマンより年上には見えないなぁ）

　映画の後半は、強盗事件のその後を描きます。強盗失敗、それが最悪かと言うと、不幸の連鎖はさらに続き、不幸のどん底には、さらなる底が・・・
　
　映画の原題は「Ｂｅｆｏｒｅ　ｔｈｅ　ｄｅｖｉｌ　ｋｎｏｗｓ　ｙｏｕ’ｒｅ　ｄｅａｄ」。
　天国に行くには、あなたが死んだ事を悪魔に知られる前でなくてはならない・・・良心を悪魔に売り渡した兄弟が辿る道は、最初から天国へ通じてはいなかった。
　監督の描き出す人間の醜い本質には考え込まされました。

　（１１月１６日　恵比寿ガーデンシネマにて）

（作品データ）

　■監督

シドニー・ルメット

　■出演

　アンディ　・・・　フィリップ・シーモア・ホフマン
　ハンク　　・・・　イーサン・ホーク

（その他のキャスト）
　マリサ・トメイ　　アルバート・フィニー　　ブライアン・Ｆ・オバーン　　ローズマリー・ハリス
　マイケル・シャノン　　エイミー・ライアン　　サラ・リヴィングストン　　アレクサ・パラディノ
　ブレイン・ホートン　　アリヤ・バレイキス

　■コピー

その瞬間、一つめの誤算。

　■Ｌｉｎｋ

http://www.so-net.ne.jp/movie/sonypictures/homevideo/sonodoyoubi/

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