ひゃくはち
これは、高校野球の補欠に焦点を合わせた、ちょっと変わった青春映画。
監督は、これが初の長編劇場作品となる、弱冠２９歳の森義隆。
原作となった早見和真の小説「ひゃくはち」の出版準備中から企画が持ち込まれ、出版に向けての最終稿執筆と映画脚本製作が平行して行われたと言う異例の作品。
実際、よく練り上げられた脚本、時間をかけた撮影、と、手間のかかった映画だな、と言う印象です。
ちなみに、「ひゃくはち」とは、数字の１０８。
人間の煩悩の数、と言われる１０８ですが、野球の硬球の縫い目の数も１０８に決まっているのだとか。
勿論、狙ってそうした訳ではないでしょうけど、これは、そんな煩悩の数を縫い込んだボールを追いかける、煩悩まみれの若者たちを描く映画です。
野球王国・神奈川の強豪校、京浜高校の野球部員たちは、甲子園を目指し猛練習に耐えていた。
２年の夏をベンチ入りさえ出来ずに終えた雅人とノブは、３年生になっても、ベンチ入り出来るかどうかのギリギリの実力。しかし、共に甲子園の土を踏もうと誓い合う。
しかし、怪物ルーキーの入学により、ポジションを奪われる事になったノブは、サードに転向。サード控えの雅人とベンチ入りをかけてポジションを争うことになった・・・
“ヒーロー”になる、選ばれた一握りの者たちと、だらだらと日常を送る普通の若者の間の存在・・・野球名門校の補欠、と言うのはそうしたものでしょう。
渾身の力を振り絞り、汗を絞り、涙も枯らして・・・それでも、彼らが“ヒーロー”になる事はあり得ない。
甲子園に出場、全国制覇を果たし、その勲章を胸にプロ入りする、と言う将来像を描く花形レギュラー選手に対し、補欠選手は、何とかベンチ入りメンバーに潜り込み、甲子園の土を踏む、それが「夢」。
そんな「夢」の暑い夏に向けての１年を映画は描いて行きます。
「どんなに努力してもかなわない夢がある」と言う、これは正に夢のような多くのスポ根映画の対局にあるような、現実的なシビアなものです。
しかも、この映画は、そうしたシビアな視線を元に、通常のスポ根ものが避ける、高校スポーツの裏側へと迫って行きます。
プロ球団スカウトとの癒着、マスコミのねつ造報道、そして、高校生の喫煙・飲酒・異性交遊・・・
新人新聞記者に喫煙を咎められても、
「今時、当たり前でしょう。煙草は高校球児のサプリメント。これで出場停止になったら、神奈川の出場校は半分になります」
と、悪びれずに答え、ベテラン記者もそれに同意を示して、見なかった事にしろよ、と言う・・・これって、高校野球連盟がどんな顔して観る事やら。ちょっと不安になりました。
（この映画、青春ものの癖に、「ＰＧ１２」になっていたので、何かあるな、と思ってはいましたが、こう言う事だったとは・・・）
しかし、そうして華やかな表舞台だけでなく、裏も見せているからこそ感動できるドラマがあります。
補欠にだって、試合に出られなくたって、出来る事がある。
雅人とノブが２人だけで打ち込んで来た練習・・・正に、「練習は裏切らない」、その結果が出たラストシーンには、爽やかな感動がありました。
（８月２２日 ＴＯＨＯシネマズららぽーと横浜にて）
（作品データ）
■監督
森義隆
■出演
雅人 ・・・ 斎藤嘉樹
ノブ ・・・ 中村蒼
（その他のキャスト）
竹内力 市川由衣 二階堂智 光石研 高良健吾
北条隆博 桐谷健太 三津谷葉子 橋本一郎 太賀
平田貴之 阿部亮平 沖原一生 照井健仁 石川遼
又吉全吾 山田健太 有末麻祐子 芳本美代子 小松政夫
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青春って、甲子園ってこんなに泣けたっけ
愛すべき補欠たちの感動のドラマ
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