象の背中
象は、己の死を悟った時、群を離れ、孤独に死んで行く・・・
この映画は、そんな象になれない男の話です。
この映画の主人公、幸弘は、大手不動産会社で部長として大規模プロジェクトを切り盛りするエリートサラリーマン。
体調不調の為、検査を受けた彼は、末期の肺がんで余命半年と宣告される。
しかし、彼は、残された時間を精一杯生きたいと、延命治療を受けないことを決意する・・・
これは、主人公が、残されたその半年をどのように生きるか、と言う映画です。
幸弘は、初恋の人に会い、喧嘩別れした友人とも会って仲直りを果たし、仕事を育てて来た部下に預け、家族と共に死を迎えます。
でも、これはあまりにきれい事ではないですか？
幸弘は外に愛人を抱えており、妻は家で毎日を孤独に過ごし、息子は連日深夜まで帰らず、娘は部活動に夢中・・・そんな崩壊寸前の家庭（まぁ、何処もこんなものかも知れませんが）が、病をきっかけにひとつにまとまる？
これは物語としても美化し過ぎではないですか？
現実はこんなものじゃないでしょう。
死の恐怖に怯え、周囲の理解も愛情も得られず、病が重くなれば、無価値な人間として周囲から切り捨てられ、今まで住んでいた世界とは切り離された病院のベッドの上で孤独に死んで行く。
それがリアル、ってもんでしょう。
そんな現実から無縁の、ある種理想の、ファンタジーのような死の光景を見せられた所で、感動は出来ません。
（１１月２日 ＷＭＣ海老名にて）
（作品データ）
■監督
井坂聡
■出演
藤山幸広 ・・・ 役所広司
藤山美和子 ・・・ 今井美樹
（その他のキャスト）
塩谷瞬 南沢奈央 井川遥 高橋克実 白井晃
小市慢太郎 久遠さやか 益岡徹 手塚理美 笹野高史
伊武雅刀 岸部一徳
■コピー
「今」この幸せを、生きていく──
■Ｌｉｎｋ
［戻る］