ストロベリーショートケイクス
日曜日、川崎駅前に新しく出来た１０９シネマズに行きました。
川崎には、既にチネチッタ、ＴＯＨＯと２つのシネコンがあるので、差別化が必要なのでしょう、単館系の作品を上映しているのがいいですね。
そんな訳で、注目していた単館系の作品「ストロベリーショートケイクス」を観ました。
これは、魚喃キリコの傑作コミックを映画化したもの。脚本は小説家の狗飼恭子で、現代を生きる女性の姿を赤裸々に描きます。
監督は、海外でも評価の高い矢崎仁司。
これ、この感想を書くをちょっと迷いました。
映画としては、すごくよかったので何か言いたい、書きたい気持ちはあるのですが・・・正直、よく判らない「女」について書くのに躊躇いがあるのです。
そう思わせるほどに、生々しく、現実的で、かつインパクトのある映画です。
まったくもって見事な作品ではあるのだけど、お勧め出来るか、と言うとちょっと微妙。
何にせよ、今年の邦画屈指の映画だとは思うのですが・・・
映画の中心にいるのは４人の女性。
恋に憧れる里子は、ロマンチックな恋愛とは程遠いデリヘリで電話番バイトをしている。秋代は里子のバイト先のベテラン・デリヘル嬢だ。片思いの男性がいるものの、うまく伝えられない。
ちひろは、恋愛中毒気味のＯＬ。恋愛＝結婚のちひろは、それ故に男が「ひく」存在だ。塔子はちひろと同居しているイラストレーター。ストレスから来る過食症をちひろにすら打ち明けられないでいる・・・
この中でも主演格は、里子を演じた池脇千鶴になるでしょう。
既に２４歳なんだけど、相変わらず高校生（あるいは少年）にしか見えない、稚なさとボーイッシュさが同居した雰囲気は健在。
そんな彼女が煙草をふかし、ビールをあおる姿にはちょっとイケナイ雰囲気がありました。
ただし、抜群に存在感があったのは、秋代役の中村優子。
アンニュイなデリヘリ嬢としての表情、片思いの男友達の前で見せる活動的でバンカラな感じの表情・・・どちらが本当の顔か判らない（恐らくは両方とも違う）、その様は正に「女は化ける」と言うのを実感させてくれました。
塔子役の岩瀬塔子、ちひろ役の中越典子も含め、この４人の女優の頑張りはすごいものがあると思います。
彼女たちの、正に「身体を張った」演技が、映画の中の４人の女性を、血の通った「生きている」ものにしたのですから。
矢崎監督のカメラは、そんな彼女たちの日常に寄り添って行きます。
それは、正に彼女らの生活に密着する、と言うのが相応しいもの。
ドラマによくある、絵に描いたような生活ではなく、眠りから目覚めた気だるさ、食事、そして排泄、セックス、そして死・・・生きて行く、と言う事をまざまざと映し出す事によって、彼女たちが、今、そこに「生きている」実感を演出します。
これ、描写によっては生々しい、と言うレベルを越え、生臭くなってしまう内容だと思います。
しかし、この映画は、美しく繊細な映像で、これを描き、その”生臭さ”排除しています。
（その結果としてのＲ１５指定でしょうね。これ、Ｒ１８になってもおかしくない内容だと思います）
色彩、照明、カメラアングル、と、そのワンカットが作り込まれているのが判り、１枚の絵のように美しいカットがいくつもあります。
もちろん、主演格の４人を、透明感のある女優が演じているせいもありますし、狗飼恭子の脚本が優れているから、というのもあるでしょう。
そうした、実感のある、かつ美しい映像で描き出すのは、彼女たちの「孤独」です。
里子は、拾った石ころを神様に見立て、願い事をする。
生を産まない性に浸って生きる秋代は、死臭すら感じさせる無味乾燥な部屋に暮らし、棺桶の中で寝起きする。
塔子は、思いを画用紙につづり、それを絵の具で塗りこめていく。
ちひろは、男に愛される事でしか自分を認められない。
生きていたい、恋したい、認められたい、愛されたい・・・そして、「幸せになりたい」。
そんな彼女たちの無言の叫びは、誰にも届かない。
神様が救ってくれる事もなく、誰かが助けてくれる訳でもない。
もがき苦しみながらも、自分の足で「幸せ」に辿り着くしかないのです。
タイトルにもなっているイチゴのショートケーキ。
最初にイチゴを食べてしまってはつまらないし、後で食べればクリームの甘さに慣れた舌にイチゴはすっぱい。
でも、人生における幸せなんて、そんなものかもしれません。
見えない未来へ、また一歩、踏み出すだけのラストシーンが爽やかなのは、正に最後に残ったイチゴの味わいなのかもしれません。
（１０月１日 １０９シネマズ川崎にて）
（作品データ）
■監督
矢崎仁司
■出演
里子・・・池脇千鶴
秋代・・・中村優子
塔子・・・岩瀬塔子
ちひろ・・・中越典子
（その他のキャスト）
安藤政信 加瀬亮 杉村蝉之介 高橋真唯
趙 珉和 奥村公延 中原ひとみ 前田綾花
宮下ともみ 桂亜沙美 伊藤清美 いしのようこ
■原作
魚喃キリコ
■Ｌｉｎｋ
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