ローズ・イン・タイドランド

　これは、ミッチ・カリンの小説「タイドランド」を、あのテリー・ギリアムが映画化したダーク・ファンタジー。

　物語の主人公は、ヤク中の両親に育てられた１０歳の少女ジェライザ＝ローズ。
　薬物ショックで母親が急死、父は、ローズを連れて少年時代を過ごした実家に向かう。
　もっとも、実家を守っていた祖母は既に亡くなっており、廃屋になりかけている荒野の真っ只中の一軒家に到着早々、父はオーバードーズで死亡。その死を理解出来ない（しようとしない？）ローズは、家の中や家の周囲を冒険して回るのだが・・・

　これは、テリー・ギリアムが描く「不思議の国のアリス」です。
　同様に、少女の奇妙なイマジネーションが生み出した世界の冒険を描いてはいるのですが、さすがギリアムと言うべきか、物語はグロテスクな上に、死と腐臭、そして狂気に満ちています。
　そんな世界で、少女は、死と狂気の境界線上を、自らは意識することなく、自分中心の世界の中で暮らしていきます。
　そして、自由奔放なイマジネーションのままに、そんな”世界”を受け入れて行くのです。
　そんな少女の過ごす、幻想と現実、狂気と正気、生と死の狭間にある世界こそが、原題にもある”タイドランド”（境界線）なのです。

　・・・まぁ、テリー・ギリアムの映画に下手な解説は野暮と言うものですね。
　能書きはともかく、テリー・ギリアムが生み出した、悪夢のような”タイドランド”を体験することが、この映画の存在価値でしょう。

　そんな、狂気にまみれ、汚れて死臭を放つ世界の中で、唯一と言っていい輝きを放つのが、主人公のローズを演じた、カナダの子役、ジョデル・フェルランド。この少女は、正にこの映画の中心です。
　抜群の愛らしさ、そして、その演技力には驚嘆するしかありません。彼女は、正に天才少女です。

　物語の中で、少女は最後まで境界線上に止まります。
　そして、最後の最後にギリアムは、”タイドランド”を破壊し、現実を呼び込んでしまうのですが・・・これはハリウッドの限界なのかなぁ・・・

　（８月１５日　恵比寿ガーデンシネマにて）

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