トラペジウム

　これは、アイドルグループ・乃木坂４６の１期生、高山一実が、現役アイドル時代に執筆した初の長編小説をアニメ映画化したもの。
　監督は、「アニメミライ2013『アルヴ・レズル』」の篠原正寛。

　城州東高校に通う高校１年生の東ゆうは、子供の頃に観たアイドルに憧れ、「城州の東西南北の美少女を集めてアイドルグループを結成する」と言う計画を練り上げた。その計画の実現に向け、ゆうは、城州を駆け回り、お嬢様学校の聖南テネリタス女学院２年生の華鳥蘭子、高専ロボコン優勝を目指す西テクノ工業高等専門学校２年生の大河くるみ、ボランティア活動に勤しむ城州北高校１年生の亀井美嘉と次々に友達になった。そして、ロボコン大会や文化祭といったイベントを通して、ゆうは着々と“東西南北”４人の結束を固めていく。
　そして、人気の観光地のガイドボランティア活動が注目され、ゆうたちはテレビ出演の機会を得る。さらに、番組制作会社のＡＤ・古賀萌香との出会いから、“東西南北”４人のアイドルデビュープロジェクトが始動、ゆうの野望は実現に向けて動き出したのだが……

　これは、女子高生がアイドルになる映画で、絵面的にも女の子ばかり……一見、よくある萌えアニメと見せて、これは決してキラキラした内容ではなく、結構どす黒い映画となっています。粗筋で判るかもしれませんが、これは単体ではアイドルになれない少女がグループを組んでアイドルデビューを目指すと言うものであり、自己実現の為には、他の女の子を利用し、その人生を捻じ曲げる事さえ正当化する、東ゆうと言う主人公の暗い野望の物語なのです。
　更に、芸能界の華やかな舞台だけではなく、過重労働に、失われるプライベート、ＳＮＳでの誹謗中傷……さまざまなストレスで壊れて行く少女と、人間関係……これを、少女マンガタッチの絵柄で見せるのはちょっとエグいのでは、と思いましたが……もっとも、芸能界に関心を持つ少女向けなら、この位は当然なのかもしれませんが……
　勿論、物語の原作と監修は、元・本物アイドルの高山一実なので、そうした内容には現実が少なからず投影されているのだろう、と思うと興味深い一面もあります。

　ただ、この映画、いささか構成が悪いように思います。
　“東西南北”によるステージ歌唱をクライマックスにすべく、これを後半まで引っ張った為、その後の挫折と再出発が駆け足になってしまった感があるのです。むしろ、展開としては“東西南北”がアイドルとしてステージに立つのは明確なので、そこまではもっとテンポよく描き、挫折からの再出発をしっかり描けば、これは王道の青春映画の展開となって、感動も深まったように思うのですが……
　また、最後に１０年後に飛び、“東西南北”の４人それぞれが歩んだ人生と、夢の実現を描くのは巧いと思いましたが、そこにひとり不在の人物がいるのは画竜点睛を欠くように思えました。　
　

　（２０２４年　５月１２日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督

　篠原正寛

　■出演

東ゆう　　 　・・・　結川あさき
大河くるみ　・・・　羊宮妃那
華鳥蘭子　 ・・・　上田麗奈
亀井美嘉　 ・・・　相川遥花

（その他のキャスト）
　木全翔也　　久保ユリカ　　木野日菜　　内村光良

　■コピー

はじめてアイドルを見た時思ったの
人間って光るんだって。

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