ＴＨＥ
ＴＯＷＥＲ
ザ・タワー

　これは、謎の“闇”によって外界と隔絶された団地の住人たちが見せる人間模様を描くシチュエーション・スリラー。
　監督は「この世の果て、数多の終焉」のギョーム・ニクルー。

　様々な人種が暮らすフランスのアパートの一棟。住民らが、ある朝目覚めると窓の外が“闇”で覆われていることに気づく。その“闇”に差し入れた物体は、鋭利な刃物で切られたように消えてなくなってしまう。テレビやラジオの電波は途絶え、携帯電話も圏外だが、なぜか電気と水道は使用可能。
　外の世界と遮断され、閉じ込められたままの彼らは、やがて、世代や人種ごとにグループを形成し、小競り合いを繰り返すようになって行く……

　この映画、人々が異常な状態に直面して恐怖するホラーと言うよりも、閉鎖空間内での人間ドラマが主となっており、内容としては、キム・ギドク監督の「人間の時間」に近いものを感じました。
　ただし、本作は、「人間の時間」ほどエグくもないし、リアリティの煮詰めも甘い……閉鎖空間で起きるのは、生き残りを懸けた、食料の奪い合いに主導権を誰が握るかの争い――そして、セックスだ、と、人間の欲望を赤裸々に描くキム・ギドクの「人間の時間」に対し、本作はどうにも踏み込みが浅く、インパクトに欠けるのです。
　また、外部から（何故か）水と電力しか供給されないアパートの一棟で、数十人が数か月、いや数年に渡り、何を食って生きているのかがさっぱり判らず、これにはさすがに白けてしまいます。

　しかし、そんな中でも、白人、アラブ系、アフリカ系と人種や宗教ごとにグループが出来て、状況が悪くなればなるほど、グループ内の結束と、グループ間の対立が高まる、と言うのは、他民族・移民国家となってしまったフランスの“リアル”でしょうか……そうした、リアルさを軸に、無理をせず、数日のドラマとして描けば、もっと面白くなりそうだったのですが……これは、かなり残念な映画でした　
　

　（２０２４年　４月１９日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ギョーム・ニクルー

　■出演

アンジェレ・マック　　ハティック　　アーメド・アブデル・ラウィ　

　■コピー

世界を消し去る、闇が来る

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