四月に
なれば
彼女は

　これは、映画原作／プロデューサー／監督と幅広く活躍する川村元気の同題小説を佐藤健主演で映画化したラブストーリー。
　監督は、米津玄師、藤井風、宇多田ヒカルなどのミュージックビデオを手掛けてきた山田智和で、本作が初の長編映画となります。

　四月。婚約者・坂本弥生と結婚の準備を進める精神科医の藤代俊に、かつての恋人・伊与田春から突然の手紙が届く。ボリビアのウユニ塩湖からの手紙には、十年前の初恋の記憶が記されていた。その後も世界各地から届く春の手紙――そんなある日、弥生が“愛を終わらせない方法、それは何でしょう”という謎掛けを残して突然、姿を消す……春はなぜ手紙を書いてきたのか？　弥生はどこへ消えたのか？　ふたつの謎は、やがて繋がっていき……

　これはダメだ。
　ラブストーリーでありながら、エモーショナルな感情が沸き起こる事はなく、登場人物がそれらしい言葉を並べるだけ……そこには、物語を形作る強さも、説得力も感じられません。
　映画としても、豪華な配役もこれではミスキャストとしか思えないもので、劇中の１０年と言う時間を描写する事が出来ずに、主演の佐藤健、春役の森七菜共に１０年前と現在がまるで同じ印象だったりするのも勘弁して欲しい所ではありますが、最大の問題はやはり物語でしょう。
　大体、「この世から猫が消えたなら」、「億男」と川村元気の生み出す物語には説得力がなく、心動かされた事がありません――確かに、川村元気は、「君の名は。」ですれ違いの作家である新海誠に出会いを描かせてヒットに結び付けるなど、プロデューサーとしての剛腕ぶりは認めますが、物語のクリエイターとしては疑問を感じずにはいられません。本作の、倦怠期のカップルが男の恋人の死をきっかけによりを戻す、と言う物語も、陳腐な上に、難病と死を感動のネタにする、と言うのも今更どうかと思います。

　山田智和監督は、初めての長編映画、そして海外ロケでありながら、スケールの大きな映像をものにし、劇場の大スクリーンで見せるそれは見事であるし、才能を感じるカットを随所で見る事が出来るのですが、この物語ではどうしようもありません。
　川村元気原作、と言う時点で嫌な予感はあったのですが、この映画は、その予感を確認するだけに終わった感じです。　
　

　（２０２４年　３月２３日　Ｔ−ＪＯＹ横浜にて）

（作品データ）

　■監督

山田智和

　■出演

藤代俊　・・・　佐藤健

坂本弥生　・・・　長澤まさみ

伊予田春　・・・　森七菜

（その他のキャスト）
　仲野太賀　　中島歩　　河合優実　　ともさかりえ　　竹野内豊

　■コピー

それでも人は恋をする。

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