これは、黒川博行による小説「勁草」を「ヘルドッグス」の原田眞人監督が映画化したクライムサスペンス。
　出演は、安藤サクラ、そして、「燃えよ剣」でも原田作品に出演した山田涼介。

　ネリは、訳あって逃亡生活を送った果てに、今は伝手を頼って大阪で特殊詐欺に加担して暮らしていた。そんな中、懲役刑を終えた弟のジョーがシャバに戻って来る。
　根っからの小悪党で危なっかしいジョーは、あるヤバい仕事に首を突っ込んでしまい、そのはずみで抜き差しならぬ事態に足を踏み入れてしまい……

　主役となるネリを演じる安藤サクラは、アウトローと言う今までにない魅力を見せていますし、“原田組”とも言える俳優たちも確かな存在感を見せています。
　意外だったのは、カメオ出演の岡田准一で、ジョーが“殺し”の仕事を請け負った現場に、岡田准一がいた時の絶望感と言ったら……

　原作小説は特殊詐欺グループとそれを追う警察、と言う物語だったそうですが、映画は、単なる小悪党だった主人公を訳アリの女性に改変。追われる女と、女を追う男、それに出来の悪い弟と、愛憎渦巻く親子関係、更に、警察の捜査までを絡め、輻輳したクライムサスペンスとしました。
　この改変は功を奏しているのではないでしょうか？
　映画は、リアリティのある設定と、スピーディな展開、クライムサスペンスとして、前半は高い評価が出来ると思います。
　特に冒頭の特殊詐欺の現金受取のプロセスを描く辺りは、ヒリヒリするような緊張感が伝わる出色の出来映えです。
　ただ、惜しいのは中盤以降、失速、とまでは言いませんが、風呂敷を畳む段階で、広げ過ぎた設定と伏線を回収し切れていない、と言うか、物語に活かせていないのが、もどかしくも勿体なく感じました。
　とは言え、それでも出来は水準以上。開放感のある結末も悪いものではありませんでした。　
　

　（２０２３年　１０月　７日　１０９シネマズ湘南にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

原田眞人

　■出演

橋岡煉梨（ネリ）　・・・　安藤サクラ

矢代穣（ジョー）　・・・　山田涼介

高城政司　・・・　生瀬勝久

（その他のキャスト）
　吉原光夫　　大場泰正　　淵上泰史　　縄田カノン　　前田航基　　鴨鈴女　　山村憲之介　　田原靖子　　山田蟲男
　伊藤公一　　福重友　　齋賀正和　　杉林健生　　永島知洋　　サリngROCK
　天童よしみ　　江口のりこ　　岡田准一　　宇崎竜童

　■コピー

全てに抗い、全てを掠め取れ。

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