シルミド

　土曜、暑い最中のクルマいじりで汗だくになり、くたくたになった所で、涼みがてら、映画でも観ようかな、と。
　そんな訳で、ＭＯＶＩＸ本牧で「シルミド」を観て来ました。

　これは、韓国史上初の観客動員数１２００万人突破の大ヒット作品。
　（何でも、この映画を観ることが出来る１５歳以上の韓国人の３人に１人が観た計算になるとか・・・）

　１９７１年に発生、未だ真相が闇に包まれている、特殊部隊隊員の反乱事件を元にした映画です。
　物語の発端は、１９６８年。
　北朝鮮特殊部隊の韓国大統領暗殺未遂事件の対抗措置として、韓国政府も暗殺部隊編成を決意。
　死刑囚などで編成された隊員は実尾島（シルミド）の訓練施設に集められ、キム・イルソン暗殺の為の猛訓練が開始された。
　だが、その後、北朝鮮との宥和政策に転じた政府は、暗殺計画を撤回。
　計画が外部に漏れることを恐れた政府は、暗殺部隊を抹殺しようとするが・・・

　これは、国家が封印した暗部を明るみに出そうと言う問題作であり、国家と政治に翻弄される、個人の悲劇を描いたもの。

　国家の、”政治的判断”により、踏みにじられ、そして死んで行く彼らを、映画は、決して英雄として描きません。
　国家によって、「人を殺す事」だけを叩き込まれた人間は、より大きな悲劇を生むことを知りながらも、「人を殺す事」でしか自己を表現する事が出来ません。
　映画は、そんな彼らの行為を、あくまで国家に振り回された人々の悲劇として描いて行きます。

　盛り込まれた多くのエピソードには印象的なものも多いです。
　特に、隊員に対し、非人道的なまでに厳しく当たる下士官が、実は誰よりも隊員を大事に思っていたのに対し、その同僚の、隊員に人間的な扱いをするよう主張していた下士官が、命令によって態度を急変、兵士に対する蔑視を剥き出しにして兵士を処分しようとする辺りの描写は、人間性に対する重要な示唆を含んでいたように感じられて印象的でした。

　また、主演のソル・ギョングをはじめ、この映画に出演している俳優の面構えのスゴさも印象的。
　熱く、そしてギラギラと輝くような思いを剥き出しにしたような、その表情、そして眼差しは、勿論、映画で作られたものとは言え、なかなか出来るものではありません。
　これだけの面構えの俳優を揃えられる韓国映画には、確かにエネルギーを感じます。

　物足りなく感じられたのは、登場人物が多く、ドラマとエピソードを絞り込み切れていないこと。
　映画は、集団のドラマとしたかったようですが、むしろ、ソル・ギョング演じる主人公にスポットを当て、彼の、連座制によって着せられた”アカ”の汚名を濯ぎ、母を救いたい、と言う気持ちを中心に据えた方がよかったのではないか、と思います。
　そうすれば、最後、「共産ゲリラ」として”処分”されると言う運命が、より悲劇性を帯びて来るように思うのです。

　ちょっと考えさせられたのは、この映画の中で叫ばれる「キム・イルソンの首をとらせろ」と言う言葉。
　これが、観客の共感を得、そして人気に結びついているとしたならば、これはひょっとすると、宥和政策を取る現在の韓国政府に対し、国民は何らかの不満を持っている、と言う事かも知れません。

　（６月２６日　ＭＯＶＩＸ本牧にて）

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