これは、台湾映画界の伝説的音響効果技師、フー・ディンイーの半生に迫るドキュメンタリー。
　劇場公開に先がけ、第３０回東京国際映画祭にて「フォーリー・アーティスト」のタイトルで上映されました。

　１９５２年生まれのフー・ディンイー（胡定一）は、１０００本近い映画とドラマに携わってきた台湾の音響効果技師“フォーリーアーティスト“である。映画は、台湾映画界の生きるレジェンド、フーの７０本を超える担当作品を通して、彼の仕事を紹介。それはひとりのスタッフの目を通して見た台湾映画史でもある。さらには音響制作の老巨匠たちを紹介すると共に、香港、上海、北京の現状も描いて、映画音響を取り巻く環境の変化、その未来についても語る。

　これは、２０１５年に退職勧告を受け、現役を引退した音響効果技師、フー・ディンイーの功績を称え、当局の無理解に対抗してその重要性を擁護する為に２０１７年に製作されたもの。
　日本での公開は、２０２２年末となりましたが、これは「映画音響の世界へようこそ」の思わぬ人気あっての事ではないでしょうか？

　映画の中心は、フー・ディンイーになる筈なのですが、ところが、その狙い所が定まっていないように見えるのが気になります――特に前半は効果音（フォーリー）ではなく、吹き替えと声優の話が中心であったりするので尚更です。
　また、音響効果を写し出し始めても、フー・ディンイーがどのように効果音を生み出しているのか、その魔術の秘密はなかなか明らかにされません――台湾では、映画音響は。未だ職人による師弟制度で支えられており、外部の人間には明かされない、と言う事もあるのかも知れませんが……
　そんな伝統的な職人技に支えられた台湾映画と、それに対比される最新の音響機器に囲まれた北京の映画製作体制の差異など、興味深い部分は多々あり、なかなか見応えはあるドキュメンタリーではあるのですが、まとまりがなく、バラバラな印象を与えるのが残念です。
　

　（２０２３年　５月　４日　東京都写真美術館にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ワン・ワンロー　

　■出演

フー・ディンイー（胡定一）　

　■コピー

「音」で演じる。　

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