Ｊ００５３１１

　これは、独学で映画制作を学んだ河野宏紀が初監督を務め、出演・脚本・編集・整音・製作を兼任。製作も兼任した野村一瑛が主演を務め、共に作り上げた１本です。
　第44回ぴあフィルムフェスティバルではグランプリ受賞。

　ある朝、思い詰めた表情で街へ出た神崎は、タクシーをつかまえるも断られ、思案に暮れていた所、偶然、ひったくり現場を目撃。その後を追いかけて、ひったくりをした山本に声をかけ、１００万円の報酬で、ある場所へ送ってほしいと依頼する……神崎はレンタカーを借り、そうして、ふたりの奇妙なドライブが始まる。こうして始まったふたりの旅の行き着く先は……

　映画のタイトル、「Ｊ００５３１１」は、光ることなく浮遊していた二つの天体が、奇跡とも呼ばれる確率で衝突し、星と輝き出して名づけられた事に基づくと言います。
　この映画は、そんな偶然の出会いを描くものです。

　そんな本作は、殆ど最小限の人数で作り上げられたロードムービー。主演の神崎を演じた野村一瑛に、監督の河野宏紀が共演の山本を演じ、後は撮影と録音のスタッフ２名、合計４人とクルマ１台によるロードムービー。
　面白い原作、名の知れた俳優、派手な演出やアクション、感動のドラマ……と言う、映画と言うものに必要な多くを省いた本作は、ある意味、映画と言うものの本質へ迫ろうとする、野心的かつ真摯な取り組みと言っていいかも知れません。
　ドラマよりも現実を切り取ろうとするドキュメンタリー的な撮影、最小限の台詞に、背景説明の一切の省略と言うのも、有意義な取り組みですが、それでもかなり早い段階で、神崎の目的が判ってしまうのはちょっと残念に思いました。
　ただ、自分としては、最後くらいはもう少しドラマを作ってもよかったのではないか、と思いましたが……

　あと、本作はＰＯＶ映像でこそないものの、全篇手持ちカメラで、映像は事実上カメラマンのＰＯＶであり、揺れ続ける画面に映像酔いしてしまいました……映画鑑賞後、暫く気持ち悪かったです。　
　

　（２０２３年　５月　３日　ユーロスペースにて）

（作品データ）

　■監督・脚本・編集・整音・製作

河野宏紀　

　■出演

神崎　・・・　野村一瑛

山本　・・・　河野宏紀

　■コピー

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