独裁者
たちの
とき　　　

　これは、「エルミタージュ幻想」のアレクサンドル・ソクーロフ監督による映像詩。
　第３５回東京国際映画祭では、原題の「フェアリーテイル（お伽話）」のタイトルで上映されました。
　
　深い霞に覆われた色のない森の中で男たちが蠢いている。アドルフ・ヒトラー、ヨシフ・スターリン、ウィンストン・チャーチル、ベニート・ムッソリーニ――かつて世界を牛耳っていた独裁者たち。
　やがて、廃墟にたどり着いた彼らは、お互いの悪行を嘲笑、揶揄し、己の陶酔に浸る……この煉獄で、彼らはただ“天国”へと続く扉が開くのを待っているのだった………

　この映画が写し出す独裁者たちの姿は、膨大な量のアーカイヴ素材からのみで構築され、すべて彼らの存命中に撮影された実際の映像を使用しており、ディープフェイクなどの加工は施されていない、と言います。また、独裁者たちの語るセリフはいずれも過去の手記や実際の発言を引用しているそうです。
　そうして作り上げられたのは、ソクーロフが作り上げた煉獄そのもの。物語らしきものはなく、独裁者たちの、傲慢で汚らわしい言葉が延々と続くこれは、正に悪夢の再現と言っていいのではないでしょうか……正に、眠る事なくして見る悪夢――もっとも、そんな展開に途中、眠気に襲われてしまったのですが……

　この映画の中で、唯一の創作部分が、天国の門の向こうから聞こえる、謂わば“神の言葉”。
　その門が開き、チャーチルを迎え入れた際、ヒトラーやスターリンなど、「他の彼らにはまた地上で出番がある」と言うのには、ぞくっとさせられたし、それが現在のロシアから生み出された事を意味を考えさせられます。　
　

　（２０２３年　５月　３日　ユーロスペースにて）

（作品データ）

　■監督

アレクサンドル・ソクーロフ

　■出演

アドルフ・ヒトラー　　ヨシフ・スターリン　　ウィンストン・チャーチル　　ベニート・ムッソリーニ

　■コピー

これは、おとぎ話か悪夢か
嘲笑と陶酔の晩餐がいま始まる

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