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　これは、「ドント・ルック・アップ」のアダム・マッケイが製作を務めたサスペンス。監督は、ドラマ「メディア王　〜華麗なる一族」で注目を集めたマーク・マイロッド。
　出演は、名優、レイフ・ファインズに、ドラマ「クイーンズ・ギャンビット」のアニャ・テイラー＝ジョイ。

　孤島にある、なかなか予約の取れない高級レストランを訪れた若いカップル。グルメマニアの男性、タイラーが浮かれているのに、同伴の女性、マーゴの態度は何処か冷ややかだった。
　他の客は、富豪の夫妻に、横柄なビジネス・エリート、映画俳優に、有名な料理評論家も招かれていた。
　有名シェフ、スローウィックの手掛ける手の込んだコースが進むうち、店内には妙な空気が流れ出して……

　この映画、サスペンス・スリラーと言う予備知識から、現代版「注文の多い料理店」のような内容を想定していましたが、実際の内容は、ちょっと予想外――これは、現代が生み出したモノ作り、あるいは接客ビジネスの歪みをカリカチュアライズして描くものなのです。
　高級、と言うだけで価値も判らずに消費をする富裕者、その価値で自身に箔をつけようとする者、コネを力と勘違いして横柄に振舞う者、そして、舌先三寸で、人を舞い上がらせ、または突き落とす「評論家」と言う人種……そうした、アダム・マッケイもクリエイターとして直面したであろう、不条理を生み出す存在に復讐をするものなのです。
　更に、アダム・マッケイならではのアクの強さとして、そこに“能書きを垂れるマニア”を付け加えます……「そこまで偉そうに能書き垂れるならば、作ってみろ」と言われては、さすがに評する言葉に詰まると言うものです。

　そして、この映画の語り口が面白いのは、これを単純な復讐譚に描かないこと。映画の狂言回し役はアニャ・テイラー＝ジョイ演じるマーゴなのですが、彼女は、この復讐の対象ではない、謂わば巻き込まれた部外者と言うポジション――目の間隔の離れた、大きな三白眼にシャープな輪郭と言う異相のアニャ・テイラー＝ジョイは、これまでの出演作でも、何処かその場に馴染まない異質の存在感を放っていましたが、この作品での存在感は極めつけ。そのキャラクターは人型をした猫、と言うのに相応しい――そう、この映画は、己の人生を狂わせた者たちへの復讐を目論む男の前に現われた野良猫が、その場を引っかき回すものなのです。

　野良猫は人に媚びず、そして怯えず、ただ「腹が減った」と訴える……それが、人生の方向を見失った男に、その初心を、原点を思い出させる――ただ、それは余りに遅すぎました。
　結果、野良猫は毅然として去り、男は復讐を完遂するしかありません……何とも奇妙な構成と展開の映画ですが、そこは、さすがアダム・マッケイと言う所でしょうか？　
　

　（２０２２年　１１月１８日　１０９シネマズ湘南にて）

（作品データ）

　■監督

マーク・マイロッド

　■出演

スローウィック　・・・　レイフ・ファインズ

マーゴット　・・・　アニャ・テイラー＝ジョイ

タイラー　・・・　ニコラス・ホルト

（その他のキャスト）
　ホン・チャウ　　ジャネット・マクティア　　ジョン・レグイザモ

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